今年の8月、焼けつくような暑さのなか、ウースター工科大学(マサチューセッツ州)の大学院生であるケイレブ・ウッドオールは、シャベルを槍のように使い、固い地面に突き刺していた。そこはカリフォルニア州コアリンガ近辺のアスベストでいっぱいの採掘場だった。
ウッドオールは、1980年以来閉山しているアスベスト鉱山からサンプルを採取していた。その鉱山は、カリフォルニア州ダイアブロ山脈の最高地点にあり、スーパーファンド法(日本版注:環境保護に関する米国の法律。土地開発事業者は、土壌汚染に備えて一定金額の補償金を準備しておく必要がある)の指定地となっている。ウッドオールはサン・ベニート山の複数箇所から数キロ分のアスベストを採取し、シャベルでジップロックに入れ、分析するために2つの研究所へ発送した。
ウッドオールと研究仲間らは、採掘場から掘り出した材料の組成や構造を突き止めて、そこに二酸化炭素がどれだけ含まれているか、そして、追加でどれだけ保持できるかを調べようとしている。
特定種類のアスベストは、発がん性化合物の一種であるにもかかわらず、かつては建築用の耐熱材として広く使われていた。繊維状で表面積が大きいため、雨水に溶け込んだり大気中に浮いたりしている二酸化炭素分子を捉えて保持する性質に特に優れている。
そのようなアスベストのなかで最も一般的なものがクリソタイル(温石綿)である。この蛇紋石系鉱物はサン・ベニート山全体を覆っていた(蛇紋石はカリフォルニア州を代表する石でもある)。クリソタイルは二酸化炭素と反応し、主に炭酸マグネシウム鉱物を生成する。その代表的なものが、数千年間にわたって温室効果ガスを保持できる安定した物質であるマグネサイト(菱苦土石、りょうくどせき)である。
クリソタイルと二酸化炭素の反応はゆっくりと進行するので、ウッドオールと彼のアドバイザーである炭素除去研究者のジェニファー・ウィルコックス教授は、反応を加速する方法を研究している。採鉱廃棄物を用いて気候変動を食い止められるのではないかという望みを抱いて同様の研究をする科学者の数は近年増加している。炭素回収の手軽な手法であり、ニッケル、銅、ダイヤモンド、プラチナの採掘で得られるカルシウムとマグネシウムが豊富な副産物でも同様のことができる可能性がある。
まず期待されているのは、採掘過程で採られたこれらの鉱物を使用して、採掘作業自体から排出される二酸化炭素に相当する量を相殺することだ。 しかし、真に期待されているのは、この初期研究によって、大気中から莫大な量の温室効果ガスを排除するために利用できる鉱物(アスベストも含まれる可能性がある)を、効率的かつ低予算で採掘する方法を突き止めることである。
「今後10年間の脱炭素採掘は、ネガティブ・エミッションを目的として実際に採掘していく際の確信とノウハウを築くうえで役立ちます」。この新興分野を牽引する研究者の一人であるブリティッシュ・コロンビア大学のグレゴリー・ディプル教授は語る。
緩慢なサイクルを加速させる
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、地球の温度を1.5℃以上上昇させないためには、今世紀半ばまでに排出量をほぼゼロにし、今世紀中に1000億トンから1兆トンの二酸化炭素を大気中から除去しなければならないことを明らかにした。全米アカデミーズの調査によると、温暖化を2℃未満に抑えるためには、2050年までに年間100億トン、2100年までに年間200億トンを除去しなければならない見通しだ。
莫大な量だ。できるだけその数値に近づけるには、植樹したり、農耕土への炭素吸収量を増加させたりするなど、さまざまな方法を用いる必要があることはほぼ間違いない。 鉱物を使用して二酸化炭素を削減することが特に有望である理由は、大規模に実施することが可能であり、また、二酸化炭素を事実上永久に閉じ込められることだ。
石化は、自然がいわゆる「低速炭素サイクル」をする際の主なメカニズムである。 雨水中の二酸化炭素は塩基性岩を溶解し …