米国の宇宙開発計画は
次の大統領でどう変わるか?
米国の宇宙開発計画は時の政権の方針に翻弄されており、わずか10年強の間にターゲットは月から火星へ移行し、そして再び月に戻った。月ミッションや火星ミッションを軌道に乗せ、遠くない将来に実現させるには、NASAの計画が党派の議論や政権交代から確実に隔離される必要がある。 by Neel V. Patel2020.10.08
宇宙開発は長期的な取り組みだ。宇宙船1機を地上から打ち上げ、大気圏外へと送り出すには、何年もの年月と莫大な費用がかかる。地球周回軌道からさらに遠くの目的地に宇宙船を到達させるのはさらに困難だ。有人計画の場合、計画実行にはほとんどの米国大統領の任期より長くかかることが見込まれる。
問題はそこだ。米国の宇宙計画とその全体的な目標の作成を大統領府が担当していることを考えると、政権によって優先順位が異なれば、宇宙計画の方針が一転し、混乱が起こってプロジェクトに遅れをきたす。今世紀だけでも、米国航空宇宙局(NASA)の狙いは月から火星へ移り、その後で月へ戻った。2005年にブッシュ大統領は「コンステレーション(Constellation)」計画で月を目指すと発表した。2010年にオバマ大統領は火星を目指すと発表した。そして2017年、トランプ大統領は再び月を目指すことに決めた。
米大統領選挙の投票日まで1カ月を切り、ジョー・バイデンが率いる新政権が発足する可能性がある中、宇宙コミュニティは再び方針が一転する状況に備えている。こうした状況の下、新大統領の気まぐれで方針が突然大転換しないことを確実にし、プロジェクトの遂行と目標達成に必要な支援を確保できるように、米国の宇宙計画を安定化させる必要性があらためて浮き彫りになっている。
今後4年間は特に重要だ。人類を再び月に送り込むことを目指すNASAの「アルテミス(Artemis)」計画では、月面宇宙服、月面居住モジュール、着陸船(ランダー)、探査車(ローバー)、ゲートウェイ(深宇宙での有人探査を可能にするように設計された月軌道宇宙ステーション)など、月ミッション遂行を目的とした数多くの新しいテクノロジーの開発が進んでいる。このようなテクノロジーの中で火星環境ですぐに利用できるのはほんの一部だけだ。火星に応用可能なテクノロジーもあるが、再開発とテストに時間がかかるだろう。新たな方針の大転換が起これば、NASAが近年直面してきた混乱よりもひどい混乱をもたらすことになるだろう。
バイデンはこれまでの選挙運動で宇宙政策に関する詳細な説明をほとんどしていない。現時点で米国が直面しているあらゆる災難を考えると驚くことではない。「したがって、私たちは現在、憶測するしかない状態にあります」と惑星協会(Planetary Society)の宇宙政策専門家であるケーシー・ドレイアーは語る。「はっきり言って、何でもありの状況です」。
バイデンはオバマ政権時代に副大統領を務めていたので、NASAの狙いを再び火星に戻そうとしていると考える人もいるかもしれない。しかし、8月に開催された民主党全国大会で発表された民主党の政策綱領では、「民主党は、アメリカ人を再び月へ送り込み、さらに遠くの火星を目指し、太陽系探査の次の段階へ進むというNASAの取り組みを支持します」と言明している。
有人月面着陸ミッションに対して明確な支持を表明していることから、バイデン政権が誕生したとしてもアルテミス計画を中止する可能性はかなり低そうに思える。そして現時点では、バイデン政権が中止を望んだとしても中止できないかもしれない。「NASAをこの目標に向かわせるために、協力体制を築き上げ、多くの困難な作業を遂行してきました」とドレイアーは語る。ブッシュ大統領のコンステレーション計画が打ち切りとなったとき、開発計画はまだかなり初期段階にあり、多くの技術的およびロジスティック上の問題に見舞われていた。アルテミス計画では「同様の問題はそれほど多く存在しません」とドレイア …
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