ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と北朝鮮の金正恩委員長が出演する2つの政治広告が9月29日、ソーシャルメディアに流れた。ディープフェイクで作られた2人のリーダーは、どちらも同じメッセージを伝えている。米国は両国からの選挙干渉を受ける必要はなく、自ら民主主義を崩壊させるだろう、というものだ。
不気味な広告だが、その目的は正当なものだ。 トランプ大統領が郵送投票への批判を繰り広げ、平和的な政権移行を拒む可能性が示される中、超党派団体「レプリゼントアス(RepresentUs)」が来る米大統領選における市民の投票権を守るために実施しているキャンペーンの一環だ。その目的は、米国人に衝撃を与えて民主主義の脆弱性を理解してもらい、有権者登録の確認や投票所でのボランティアなど、さまざまな行動をとるよう促すことだ。投票者を混乱させ、選挙を妨害するために悪用される可能性があると専門家がしばしば懸念してきた、政治的なディープフェイクの典型的なシナリオをひっくり返した広告になっている。
この広告はどのように作られたのか? レプリゼントアスと連携したクリエイティブ・エージェンシーの「Mischief at No Fixed Address」は今回、独裁者を使ってメッセージを伝えるアイデアを思い付いた。彼らは、ちょうどいい顔の形と本人のようなアクセントを持つ2人の俳優が台本を読み上げる姿を撮影した。その後、ディープフェイク作家の協力により、オープンソースのアルゴリズムを用いて俳優の顔をプーチン大統領と金正恩委員長の顔にすり替えた。ポストプロダクション・チームが画面上に残ったアルゴリズムの不自然な部分を除去し、動画をより本物らしく見えるように仕上げた。制作期間は全体でわずか10日。CGで似たようなものを作る場合、数カ月かかる可能性があるという。またその場合、コストが非常に高くなっていた可能性もあるという。
この広告はワシントンDCの、Fox、CNN、MSNBCで放送される予定だったが、各テレビ局は直前になって放送を取りやめた。キャンペーンの広報担当者は、今も各局の説明を待っていると述べた。広告の最後に、「映像は本物ではないが、脅威は本物だ」という説明が表示される。だが、政治的文脈におけるディープフェイクのデリケートな性質を考慮すれば、米国市民にはまだ早いと各局が感じたのかもしれない。
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- カーレン・ハオ [Karen Hao]米国版 AI担当記者
- MITテクノロジーレビューの人工知能(AI)担当記者。特に、AIの倫理と社会的影響、社会貢献活動への応用といった領域についてカバーしています。AIに関する最新のニュースと研究内容を厳選して紹介する米国版ニュースレター「アルゴリズム(Algorithm)」の執筆も担当。グーグルX(Google X)からスピンアウトしたスタートアップ企業でのアプリケーション・エンジニア、クオーツ(Quartz)での記者/データ・サイエンティストの経験を経て、MITテクノロジーレビューに入社しました。