天文学コミュニティに緊張が走っている。地球低軌道を周回する人工衛星の数が増えたことで、空を明瞭に見ることがほとんど不可能になっているからだ。
メガコンステレーション(巨大人工衛星群)が天文学コミュニティに及ぼす真の脅威はようやく理解され始めたばかりだ。米国天文学会が8月に公開した報告書では、メガコンステレーションが、これから実施される可視域や近赤外域における「天体観測を根本から変えてしまう」と結論づけている。「今後は、太陽の光に照らされた人工衛星が夜空の画像に当たり前に写り込んでくるでしょう」と同報告書の執筆者らは記している。
スペースX(SpaceX)の「スターリンク(Starlink)」人工衛星群の第一弾は、昨年の打ち上げから間もなくはっきりと見えるようになり、いくつかの天文台では夜空の画像撮影の邪魔になっていることが分かっている。スペースXは9月3日に、さらなるスターリンク人工衛星群の打ち上げを実施し、2019年5月以来打ち上げられてきた人工衛星653基にさらに60基が加わった。数年以内にはネットワーク全体の人工衛星の数は1万2000基にのぼるとみられ、4万2000基まで増える可能性もある。ロンドンに本拠を置くワンウェブ(OneWeb)は破産と親会社の変更(日本版注:ソフトバンクの出資から、英政府とインドのバーティ・グローバル(Bharti Global)の出資へと変わった)を経たあと、米国連邦通信委員会(FCC)から1280基の衛星打ち上げ許可を得た。これは米国でのブロードバンド・サービス提供に利用されるもので、同社は人工衛星の数を最終的に4万8000基まで増やす計画だ。アマゾンは人工衛星インターネット・サービスである「カイパー計画(Project Kuiper)」の推進に必要な3236基の衛星の打ち上げ許可をようやく取りつけた。これらは始まりに過ぎない。私たちが知っていた天文学は、今後すっかり変わってしまうことだろう。
「スペースXのスターリンク人工衛星がはっきりと見えることで誰もが衝撃を受けました」と語るのは、ミシガン州立大学の天文学者で、米国天文学会元会長でもあるミーガン・ドナヒュー教授だ。晴れた夜空に輝く光の列に多くの人が魅了される一方で、天体望遠鏡で撮影した画像にこれが光の線として残り、観測対象の星や天体をさえぎることを天文学者は知っている。「このようなものが空をうろついているかと思うとぞっとします」とドナヒュー教授は語る。
画像に人工衛星が写り込むことは今に始まったことではない。運用中の人工衛星が2600基も地球の周りを周回していれば避けられないことだ。ローウェル天文台の台長にして、前述の米国天文学会の報告書の共著者および編集者でもあるジェフ・ホール博士によれば、大部分の人工衛星、特に高度の高いものはかすかにしか見えないという。画像に写り込んでも小さな点でしかなく、問題になることは少ない。
しかし、最近の人工衛星群は低軌道に配置されるためはるかに明るく光り、光の長い線として画像に …