中国の習近平国家主席は、2060年までにカーボンニュートラル(炭素中立)にする計画を発表した。世界最大の気候汚染国家にとって、大胆な目標だ。
だが、中国の最近の動きを考えれば、9月22日の国連総会を前に発表されたこの習主席の公約を真に受けるのは難しい。特に、現在の中国は石炭発電所の建設ブームの真っただ中にあるのだ。世界中の石炭プロジェクトを監視している非営利団体「グローバル・エナジー・モニター(Global Energy Monitor)」によると、昨年末の時点で中国は、欧州連合全体の石炭発電量とほぼ同等に当たる約150ギガワット相当の石炭発電所を次々と開発中であるという。
これらの発電所は優に60年以上の運用が可能なため、今建設している発電所は、2060年の期限を過ぎてからも数十年間温室効果ガスを排出し続ける可能性がある。
中国は異なる2つの目標を両方とも実現させようとしているようだ。一方では、米国がかつて担ってきたはずの気候対策のリーダーとしての立場をドナルド・トランプ大統領が放棄する中で、自分たちがその役割を担うと主張している。もしトランプが再選した場合、米国の環境政策の後退がさらに進むのは確実だ。
中国はまた、世界のクリーンテクノロジー製造大国としての支配力拡大を望んでおり、世界が低排出のエネルギー源へと移行していく中で、その収益の最もおいしい部分を手に入れようとしている。同国はすでに、世界のリチウムイオン電池、太陽光パネル、風力タービンの大半を製造しており、電気自動車の売上シェアも世界最大となっている。
だが、今年に入ってから中国が打ち出した7兆ドルの経済刺激策では、さらなる予算が依然として石炭発電所の建設に注ぎ込まれた。その間にも、「一帯一路」開発構想を通じて中国の銀行は他国の数十もの石炭発電所に融資している。
つまり、中国の発言と行動は明らかに矛盾しているのだ。それでも、9月22日の発表が大きな意味を持つ可能性もある。
ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係研究大学院のジョナス・ナーム助教授は、今回の中国の発表が今後の5カ年計画の構想中になされたことを指摘する。つまり、仮に2060年の目標実現は叶わないとしても、中国がより厳しい温室効果ガス政策の導入に向けて動いていることを今回の発表が示している可能性があるのだ。
仮に中国が、大量の石炭発電所を廃止するか、高コストな二酸化炭素回収システムを導入するなどしてカーボンニュートラルを実現した場合、世界に多大な影響を与えるだろう。現在の中国は温室効果ガスを大量に排出しているため、「気候アクショントラッカー(Climate Action Tracker)」の分析によると、中国がカーボンニュートラルを実現するだけで地球温暖化予測が0.3℃も下方修正される可能性があるという。
いずれにせよ、今回の発表自体が、気候目標を引き上げなければならないという大きな圧力を他国に対して与える可能性がある。クリーンテクノロジーや温室効果ガス排出削減への取り組みが、新興国における貿易協定や市場、勢力圏において受け入れられつつあるからだ。