金星は長い間、地球から遠い方のお隣の赤くて小さな惑星である火星の陰に隠れてきた。金星は過酷な環境で知られており、地球外生命体を見つけたい人類は、20世紀のほとんどの期間において、その望みを火星に託してきた。
しかし、その状況は一変した。
9月14日、金星を囲む雲の中に「ホスフィン(phosphine)」と呼ばれる特殊ガスが検出されたことが発表されたのだ。地球上ではホスフィンは微生物によって生成されるガスだ。ホスフィンの発生源として既知の非生物学的なプロセスの可能性がほぼ除外されたことを受けて、金星に生命体が存在するかもしれないという期待が新たに湧き上がっている。これは確認する必要があるだろう。
ノースカロライナ州立大学の惑星科学者であり、自称「熱烈な金星支持者」のポール・バーン准教授は、「この問題の核心を突き止めるためには金星へ行く必要があります」と述べている。実際、次の金星ミッションの内容を考えるだけではなく、現在火星でしているように複数の金星探査ミッションを同時に実施するという、まったく新たな金星探査時代について考える時かもしれない。
結局のところ、地球の地上計測器での観測には限界がある。「金星は極端に明るいので、地上のほとんどの大型望遠鏡では適切に観測できません」と語るのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の天文学者で今回発表されたホスフィン研究論文の共著者の1人であるサラ・シーガー教授だ。金星を覆う厚い雲が太陽光を反射することに加え、金星は地球に近いことから非常に明るいため、基本的に地球の計器による金星の詳細な観測は不可能となっている。対向車のハイビームに照らされている時に道路を見ようとするようなものだ。宇宙に設置した望遠鏡の方が観測はうまくいくかもしれない。しかし、宇宙望遠鏡で明るさの問題を回避できるかどうかを判断するのは時期尚早だとシーガー准教授は述べている。
また、地球上の望遠鏡は微量のホスフィンやその他の興味深いガスを検出できるが、そのガスが生命体によって生成されたものか、火山活動のような他の珍しい化学反応によって生成されたものかを突き止めることはできない。シーガー准教授たちの研究グループは、金星でのホスフィン発生源を調査し、既知の自然発生源は完全に排除できるとしたが、金星には地球化学では考えられない事象が存在する可能性が非常に高い。この疑問を解明し、自然発生源の可能性を完全に排除するには、金星に接近する必要がある。
金星へ行こう!
もちろん、言うは易く行うは難しだ。金星の地表温度は464°Cと高温で、気圧は地球の89倍もある。これまで金星着陸に成功したのは、1982年にソビエト連邦が送り込んだ「ベネラ(Venera )13号」のランダー(着陸船)のみだ。しかも、同ランダーが金星の過酷な環境で作動したのは127分間だ。ほんの数時間で終わり、必要な成果をあげられないかもしれないミッションに数億ドルまたは数十億ドルを費やすことを納得させるのは容易ではない。
したがって、オービター(軌道船)から始めるのが最も賢明だ。地上での観測とは異なり、オービターは金星の大気中を詳しく観察できるし、ホスフィンやその他のバイオシグネチャー(生命体が存在する兆候)が時間の経過とともにどのように変化するか、どの領域に最も集中しているか …