米国はこれまで、何度も国家イノベーション計画を成功させてきた。生命を救う医薬品を生み出し、コンピューターとインターネットの革命に拍車をかけ、そして人類を月面へと送り込んだ。ごく最近では、米国政府は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンと治療法の開発を支援するための国家的なイノベーション活動として、製薬企業に数十億ドルを投資している。
しかしながら米国は、現代の最も深刻な脅威である気候変動に対処するためのイノベーション計画を未だに立ち上げていない。風力や太陽光発電などクリーンエネルギー・テクノロジーの中には、化石燃料に対抗するコスト競争力をつけたものもある。しかし、世界が「大規模な脱炭素化」で二酸化炭素排出量を実質ゼロにするという超人的な偉業を達成するためには、さらに多くの前進が緊急に必要となっている。
このようなエネルギー転換を世界規模で加速し、国内では競争力のある雇用創出産業を構築するために、米国は今こそ国家エネルギー・イノベーション計画を立ち上げる時だ。筆者らは9月15日、米連邦政府によるクリーンエネルギー研究開発実証(R&D&D)への投資を3倍に増加するための詳細なロードマップを示した『Energizing America(米国を元気にする)』を発行した。
気候変動に関する政治議論は二極化しているが、エネルギー革新の強力な推進に関しては超党派の合意が存在する。米議会では、テネシー州選出の共和党議員であるラマー・アレクサンダー上院議員が「クリーンエネルギーのための新マンハッタン計画」を提案している。これは、下院の気候変動危機特別委員会の民主党員から提出された「クリーンエネルギーR&D&Dへの資金を大幅増加」する提案にぴったり沿ったものだ。民主党の大統領候補であるジョー・バイデンは、当選したら「クリーンエネルギーの研究とイノベーションに対して史上最大の投資」をすると公約している。ドナルド・トランプ大統領政権はエネルギー・イノベーションに投入する資金の削減を繰り返し求めてきたが、共和党議員はトランプの要求を拒絶し、過去4年間、増額し続けてきた。
この超党派の支持の高まりは、次期政権と議会にまたとない機会をもたらしている。国家エネルギー・イノベーション計画の立ち上げは、非常に野心的かつ政治的に達成可能な気候政策を意味する。
莫大な投資は必要ない
クリーンエネルギー・テクノロジーのパフォーマンス向上とコスト削減は、国際的な気候変動対策を推進させるために米国ができる最も大きな貢献だ。
現在のテクノロジー水準では、大規模な脱炭素化を実現できない。国際エネルギー機関(IEA)は、気候危機に対処するために必要な46のテクノロジーのうち、2070年までに二酸化炭素排出量実質ゼロの実現を可能にし、地球温暖化を2°C未満に抑えるために大規模展開へ向けて進展しているのは6つだけだと警告している。残りの40のテクノロジーは、さら …