英国の製薬会社であるアストラゼネカ(AstraZeneca)は、世界的に実施していた新型コロナウイルス感染症(COVIID-19)ワクチンの治験の第3相臨床試験で、英国人被験者が深刻な症状を示したことで、治験を中断した。「重篤な有害反応」とみられる症状がワクチン接種によるものなのか、単なる偶然なのかは不明だが、スタット(STAT)によると同被験者は回復する見込みだという。治験の再開がいつになるかは分からないが、アストラゼネカはこれまでに集めた安全データを全て見直し、他の9カ所で実施されている第3相試験の研究者も、同様の副反応を示したケースがないか精査する。
悲観するのは早い。こういった場合に治験が中断されるのは標準的な措置だ。試験が中断されれば、新規被験者の参加登録と既存被験者への投与も見送られる。ワクチン開発にとっては一歩後退だが、一時的なものにすぎないだろう。開発スケジュールと治験の結果に政治的なプレッシャーがかる中で、標準的な安全措置が取られ続けているのは心強い。米国のトランプ大統領は、11月3日の大統領選挙前にワクチンの完成を発表したがっているが、これには対立候補のジョー・バイデンだけでなく、製薬会社も激しく抵抗している。臨床試験が最終ステージに入っている製薬会社全9社の最高経営責任者(CEO)らは9月8日、「科学的立場を取り」、ワクチンを接種された個人の安全と健康を最優先とし、第3相試験で安全性と有効性が示されたワクチンだけを承認申請するという宣誓書に署名した。
アストラゼネカのワクチン候補は世界的なワクチン開発競争の先頭を走っており、2020年末までに承認が得られるだろうと同社は予測していた。このワクチンは、チンパンジーアデノウイルスを改変して人間に対して無害化させ、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が持つタンパク質の遺伝子を組み込んだものだ。そのアデノウイルスが免疫系を刺激して、新型コロナウイルスに対する防御反応を示すよう設計されている。以前に実施した治験では、1000人の被験者のうち60%が、発熱・頭痛・筋肉痛などの副反応を示したが、いずれも症状は軽く、すぐに治まった。英国の慈善研究団体「ウェルカム(Wellcome)」のワクチン・プログラムを率いるチャーリー・ウェラー医師は、「どんなワクチン開発でも安全が第一ですから、調査が実施されている間は治験を中断させるのは正しい判断です」と語った。
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