フェイスブックの「政治広告禁止」で民主主義は守れるか?
フェイスブックは米大統領選前の1週間から政治広告を一時的に禁止する。だが、政治広告の禁止だけでは対立と分断を煽るソーシャルメディアの問題は解決しない。 by Tate Ryan-Mosley2020.09.25
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)は、米国の大統領選挙の1週間前から当日までの間、政治広告の受け入れを停止すると発表した。ソーシャルメディアが選挙のバランスを変えるほどの強い力を持っているのではないか、という広範な懸念への対応だ。
選挙運動では長らく、有権者への直接的な接触と、有権者一人一人に特化したメッセージを届けることが、特定の候補者への投票を促すのに効果的な手段だと信じられてきた。しかし2016年、ソーシャルメディアがこうした考え方を増幅させる事態が持ち上がった。プライバシーを侵害するようなデータ収集と高度にターゲティングされた政治的なメッセージが、突如として民主主義に大惨事を引き起こす方策を生み出したのだ。
アルゴリズムを操作するという策略によって、オンラインで米国の有権者の大多数を一斉に洗脳するという方法は、米国世論の二極化を説明するのには都合の良い考え方だ。しかし、専門家によると、ターゲット型の政治広告が有権者の行動に大きく影響を与えるようなことは、実際にはほとんどあり得ない。
「すぐに、そのような広告には、まったく効果がないと分かります」
フェイスブックが政治広告禁止を決めた理由の背景には、ソーシャルメディアが投票先を決めかねている有権者を説得できるという考え方がある。これは2016年の米国大統領選以来語られてきたことであり、ケンブリッジ・アナリティカ(Cambridge Analytica)はフェイスブック上で、投票先を決めていない不安定な有権者に「心理戦」を仕掛け、ねつ造ニュースを信じ込ませてドナルド・トランプに投票するよう仕向けたという主張だ。ガーディアン紙は、ケンブリッジ・アナリティカが「ビッグデータとソーシャルメディアに既存の軍事戦略『情報操作』を適応し、米国の有権者に仕掛けた」と大々的に報じた。
しかし現実には、10年前から現在にいたるまで、投票先を決めていない有権者を政治広告によって説得するようなことはほとんど起きていない。
一部では、特定のオンライン属性と有権者のプロフィールを関連づけることで、選挙陣営はターゲットとなる有権者をより小規模かつ具体的な特徴を持つ、特定の事柄を重視するグループに絞り込めると指摘する声もある。つまり、そのグループの人たちを特定の投票行動へと促す手段になる可能性があるというわけだ。例えば、初めてミネソタ州の有権者となった無党派層の中で、アウトドア用品の巨大チェーン店バス・プロ・ショップス(Bass Pro Shop)に「いいね!」をつけた人は、銃の所持を不安視している可能性が高い、といった推測が成り立つ。
しかし、タフツ大学のエイタン・ハーシュ准教授によると、こうした推測には複数のエラーが重なっている。ある選挙運動において「『ジャージー・ショア~マカロニ野郎のニュージャージー・ライ …
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