「冷房の危機」待ったなし、 求められる抜本的な変革
持続可能エネルギー

California's air conditioner-driven blackouts are only the start 「冷房の危機」待ったなし、
求められる抜本的な変革

地球温暖化によるエアコン使用量の増加は、急激な電力需要の増加と大量の温室効果ガスの排出につながっている。さらなるエアコン設置台数の増加に伴う「冷房の危機」を回避するための抜本的な変革が必要だ。 by James Temple2020.09.15

記録的な熱波がカリフォルニアを襲った8月、数百万台ものエアコンが一斉にフル稼働したことで、カリフォルニア州の送電事業者は、数十万世帯を停電にせざるを得なくなった。

カリフォルニア州の計画停電は、今後、世界各地で予想される出来事の小さなヒントを提供したにすぎない。IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)の報告書「冷房の未来(Future of Cooling)」によると、人口の増加、所得の上昇、都市化の進展、夏の気温上昇によって、今世紀半ばまでに世界中で設置されるエアコンの台数は現在のおよそ3倍、合計60億台近くにまで達するという。

実際、エアコンは気候変動においてもっともたちの悪い課題の1つであり、対策が非常に難しいテクノロジーの問題の1つでもある。さらに地球の温暖化が進めば、単に快適さのためだけでなく、健康や生き残るための冷房が世界の大部分で必要になる。

だが、エアコン自体が、都市部の気温を上昇させるのに十分な熱を発し、さらには非常に強力な温室効果ガスも排出している。加えて、膨大なエネルギーを消費する数十億台もの新規設置のエアコンは、世界中の電力需要増加の大きな要因の1つとなってしまう。

大幅な改善がなければ、冷房によるエネルギー需要も3倍となり、2050年までには6200テラワット/時、つまり現在の世界における総電力消費のほぼ4分の1相当にまで達することになる。

その課題の大きさにもかかわらず、エアコン分野への資金流入は比較的少なく、市場における製品に目立った進歩はほとんどない。効率が緩やかに向上している以外、基本的なテクノロジーはエアコンが導入された約100年前からあまり変わっていないのだ。

「数十年間も外観と機能がほぼ同じでありながら、窓に取りつけるエアコンの使用が引き続き増えているという事実が状況を物語っています」。トロー(Treau)のヴィンス・ロマーニンCEO(最高経営責任者)は話す。トローは、サンフランシスコを拠点とする、まったく新しいタイプのヒートポンプを開発するスターアップ企業だ。「多くの人がエアコン分野での新しい何かに期待していると思いますが、実際には少しずつ進歩しているだけなのです」(ロマーニンCEO)。

ここ数十年で、公共政策や献身的な研究努力、よりクリーンな代替エネルギーに対する需要の高まりに牽引されて、太陽光パネル、バッテリー、電気自動車など、化石燃料以外のエネルギー・テクノロジー全般でコストと性能が大幅に改善している。トローは、冷房分野でも同様の進歩を達成しようと、さまざまな方法を試みているスタートアップ企業の1つだ。

しかし、世界中のエアコン・ユニットがはるかに効率的になったとしても、使用量の飛躍的な増加が予想されることから、世界的な電力需要は依然として急増することになる。これは、世界の電力部門をよりクリーンなものにするという、すでに難しい課題をより複雑なものにしてしまう。各国は既存の電力インフラを修理・改善するだけでなく、カーボンフリー電源ですべてをまかなえるほど、これまでにない巨大なシステムを構築する必要があるのだ。

数十億台という新しいエアコン

家庭やオフィス、それに工場に充満する大量の熱気を絶え間なく冷却することは、現在そして将来にわたって、大量にエネルギーを消費し続けるということだ。

問題は、より多くのエアコンに電力を供給するために、これまで以上の電力が必要というだけではない。実際に焼けつくような気温になり、誰もが同時にエアコンを強くするピーク時に必要とされる電力量も、一気に跳ね上がってしまう。つまり、1年のうちの数日、数時間にだけ必要になるかもしれない需要レベルに対応するために、過剰ともいえる電力システムを作らなければならない。

アリゾナ州立大学とカリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究者が執筆したアプライド・エネルギー誌(Applied Energy)に2019年に掲載された …

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