未来に何が起こるかを知っている人はいないが、未来について他の人より優れた推測をする人はいる。蹴り上げたサッカーボールが空中で反転してキッカーの足元に戻ることはない。半分食べたチーズバーガーが元に戻ることはないし、骨折した腕が一晩で治ることもない。
インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者たちは、アインシュタインの特殊相対性理論で提示された因果律に関する基礎的な説明を利用して、人工知能(AI)により正確な予測をさせる方法を発案した。
世界は一歩ずつ進歩し、どの瞬間も先行する瞬間から生まれる。私たちが次に起こることをだいたい推測できるのは、生まれた瞬間から世界がどのように動いているかを観察し、数百万年かけて進化した脳で観察結果を処理して、原因と結果の関係について勘が鋭くなったためだ。
しかし、コンピューターが因果関係に基づいて推論するのは難しい。機械学習モデルは相関関係の発見は得意だが、ある事象が別の事象の後に起こる理由を説明するのは苦手だ。このことが問題となるのは、因果関係を知覚していないと予測は大きく外れてしまうためだ。なぜサッカーボールは空中で反転するはずがないのか?
このことはAIによる診断において特に懸念されている。病気は複数の症状と相関関係があることが多い。例えば、2型糖尿病の人は肥満が多く、息切れしやすい。だが、息切れは糖尿病が原因ではないため、インスリンで治療しても症状は改善されない。
AIコミュニティは、因果推論が機械学習にとっていかに重要であるかを理解しつつあり、AIに因果推論を学ばせる方法を模索している。
研究者たちは、次に起こることをコンピューターに予測させるためにさまざまな方法を試みてきた。既存のアプローチでは、機械学習モデルをフレームごとに訓練して一連の動作パターンを検出する。 例えば、AIに列車が駅を出発する様子を数フレームだけ見せたあと、それに続く次の数フレームを生成させるというような方法だ。
インペリアル・カレッジ・ロンドンの博士課程生であるアタナシオス・ブロンツォスによれば、AIは未来の2~3フレームについては出来のいい予測を立てられるが、5~10フレームを過ぎたところからは予測精度が急激に落ち込む。AIは前のフレームを使って次のフレームを生成するため、序盤で生じた小さなミス、例えば、少数の画素に発生した誤りが、処理を進めるうちに大きなエラーに発展してしまうのだ。
ブロンツォスと共同研究者たちは、従来とは違うアプローチを試してみることにした。AIに何百万というビデオ・クリップを見せて特定のフレーム・シーケンスを予測させるのではなく、前のフレームと大まかに似通ったあらゆるフレームを生成させ、その中から次に来る可能性が最も高いものを選ばせるようにしたのだ。ブロンツォスによれば、このアプローチを用いると、AIは時間の経過について何も学習せずに未来を予測できるという。
これを実現するためにブロンツォスたちの研究チー …