KADOKAWA Technology Review
×
【冬割】 年間購読料20%オフキャンペーン実施中!
米FDA、新型コロナ治療法として回復患者の血漿を緊急使用許可
Ahmad Ardity | Pixabay
The US just approved the use of plasma from covid-19 survivors as a treatment

米FDA、新型コロナ治療法として回復患者の血漿を緊急使用許可

米国食品医薬局は8月23日、新型コロナウイルス感染症の回復患者の血漿を治療薬として使う緊急使用許可を出した。治療効果に関するエビデンスが不足している中、今後のワクチンの承認にも影響を与えそうだ。 by Antonio Regalado2020.08.31

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬として、回復患者の血漿(けっしょう)を広範に緊急使用することが、米国で承認された。しかしながら、治療効果を示す証拠は限られている。

ホワイトハウスが「画期的」だと大々的に宣伝するこの治療法は、現在闘病している患者に回復患者の血漿を提供するものだ。今年の早い段階から、中国やオランダで試みられている。米国食品医薬局(FDA)によると、米国でも研究の一環としてすでに7万人以上に投与されており、医療費が免除される場合もあるという。

仕組みはこうだ。回復患者の血漿にはウイルスの排除に役立つ抗体が含まれている。特に感染初期に血漿が投与された場合に死亡率が低下する可能性があることが、いくつかの研究によって示唆されている。FDAは、この治療法に緊急使用許可を出した際にこうした可能性に言及し、回復期血漿を「有効性の見込める」治療法だと見なしている。しかし、FDAは同時に、回復期血漿を新たな「標準治療」として認定できるまでには至っていないと述べている。

FDAは、公衆衛生の緊急時においては、薬剤の効果を示す決定的な証拠がなくとも、「効果があるかもしれない」薬剤の広範な使用を承認する権限を持っている。今年の3月には、2つの抗マラリア薬に緊急使用許可を与えたが、6月に撤回した。その理由についてFDAは、2つの薬剤(ヒドロキシクロロキンとクロロキン)には効果が見込めず、ヒトの心臓に副作用を生じたためだと説明した。

米国内での血漿療法の取り扱いに批判的な医師もいる。医師には臨床試験以外での投与が何万件も許可されているため、治療効果に関する決定的な証拠を集めるのが困難になっているというのだ。有効性の証明には、ある患者に血漿を与え、別の患者には偽薬を与えるような比較試験が欠かせない。今回出された緊急使用許可では、個々の患者に血漿を投与する際に、4月以降必要とされていた書類が事実上廃止された。血液センターは、新型コロナウイルス感染症の回復患者からの献血を積極的に募っている

8月第4週のニューヨーク・タイムズ紙では、血漿の使用許可を出すだけの根拠が不足している状況に対する政府の保健当局高官の懸念が報じられた。ドナルド・トランプ大統領はその報道のすぐ後に、FDAあるいは「ディープ・ステート(闇の政府)なのか誰だか知らないが」、自身の11月の再選を阻むために治療法の確立を遅らせているとツイッター上で非難した。

今回の血漿療法の承認プロセスが、新型コロナウイルス感染症のワクチンを巡る米国政府の動きにも影を落とすことを心配する科学者もいる。米国のワクチン研究を取り仕切っている主任医師は、ワクチンの効果を裏付けるデータは、どんなに早くても来年1月までは確保できないと語っている。しかし、フィナンシャル・タイムズ紙の報道によると、トランプ政権は大統領選の前までにワクチンを大急ぎで緊急使用許可する方向だという。仮に安全でもなく効果もないワクチンが広く使われることになれば、回復期血漿に効果がなかった場合よりも大きな失敗となるだろう。なぜなら血漿はすでに感染している患者に投与されるが、ワクチンは健康な人に投与されるものだからだ。

(関連記事:新型コロナウイルス感染症に関する記事一覧

人気の記事ランキング
  1. Promotion Innovators Under 35 Japan × CROSS U 無料イベント「U35イノベーターと考える研究者のキャリア戦略」のご案内
  2. The 8 worst technology failures of 2024 MITTRが選ぶ、 2024年に「やらかした」 テクノロジー8選
  3. AI’s search for more energy is growing more urgent 生成AIの隠れた代償、激増するデータセンターの環境負荷
アントニオ・レガラード [Antonio Regalado]米国版 生物医学担当上級編集者
MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。
▼Promotion 冬割 年間購読料20%off
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る