カリフォルニア州の電力システムは、史上最高気温を記録した猛烈な熱波の影響に屈服しつつある。
熱波に襲われた住民が室内温度の上昇を避けるため、いっせいにエアコンの出力を上げたとき、州の主要な送電網事業者は数日間、一時的に数百万世帯の電力供給を停止する一連の計画停電を実施した。カリフォルニア州で約20年ぶりとなる予定外の計画停電で、電力システム全体に波及する一連の障害を防ぐための予備電力が不足したことで、土壇場になって実施された。
気候変動の加速に伴い、夏の異常な暑さはますます一般的になっており、酷暑での電力喪失は住民に深刻な健康リスクをもたらす。世界第5位の経済規模を持つカリフォルニア州は、不安定な風力や太陽光などの再生可能エネルギーの割合が高く、電力網の信頼性を検証する重要なテストケースでもある。
業界観測筋と州の電力事業者は、突然の停電を送電網事業者に強要する原因となったさまざまな問題の解明と議論をまだ続けている。将来同様の事態を回避するため、何が必要なのかを模索している。
州の電力システムの運用を監視するカリフォルニア州独立系統運用機関(CAISO)は、十分な余裕を持って州の予備電力を確保していなかったとして、カリフォルニア州公益事業委員会(CPUC:California Public Utilities Commission)を批判した。また、発電量に余裕があるときに停電を実施するなど、送電網事業者が過度に保守的な運用をしていたのではないかとの疑問も上がっている。CPUCのロレッタ・リンチ元委員長は、2000年代初頭のカリフォルニア州の電力危機を招いたような市場操作に電力卸売業者が関与している可能性に言及した。
分かっていることは、8月14日に1組の天然ガスタービンが停止したこと、15日の夕方に電力需要の急増があったこと、その後、風力発電の発電量が急激に落ち込んだことだ。さらに、米国西部のほとんどの州が熱波にさらされていたため、カリフォルニア州は平時のように近隣州からの電力供給に頼れなかった。
CAISOの理事で、カリフォルニア大学バークレー校のエネルギー経済学者であるセヴェリン・ボレンスタイン教授は、州が再生可能エネルギーへの依存度を高めていることが停電の一因なのは「間違いない」という。ボレンスタイン教授は、14日と15日の停電はどちらも、夕方に太陽光による発電量が減少したときに発生したと指摘する。さらに14日の停電は、カリフォルニア州の天然ガス施設の閉鎖や、近隣州の石炭発電の減少など、化石燃料発電所からの電力配分を減らしてきたことが、電力システムの安定性低下につながっていると付け加えた。
ボレンスタイン教授は「だから太陽光発電をやめるべきだ、とは言っていません」と話す。「しかし、太陽光発電が何を提供し、何を提供しないか、また太陽が沈んだ後に電力が供給されないことについて、現実的に考える必要があります」。
重大な問題は、夏はますます暑くなり、再生可能エネルギーが送電網の大部分を占めるようになったとき、カリフォルニア州や他の地域はどのように安定した電力供給ができるのだろうか、ということだ。とりわけ必要になるのは、より多くのエネルギー貯蔵、より信頼性の高いカーボンフリー(二酸化炭素を排出しない)電源、老朽化した送電網の大幅な更新だろう。
スタンフォード大学ウッズ環境研究所(Stanford Woods Institute for the Environment)のマイケル・ワラ上級研究員は「現在の送電網はほとんどが、1980年代から運用されているものです」と電子メールでコメントした。「過去40年間、必要なペースで更新するどころか、維持さえしてきませんでした。以前とはまったく異なる方法で、ほぼまったく別の場所で発電すると決めたにもかかわらずです」。
だが一方で、ボレンスタイン教授やロッキーマウンテン研究所(Rocky Mountain Institute)のベン・セリュリエ部長など、ほとんどのエネルギー専門家は、最も安価かつ速やかに問題を解決できる方法は、カリフォルニア州の電力事業者や送電網事業者が、効果的な需要応答(デマンド・レスポンス)プログラムを設計し、実装することだという。
つまり、需要の多い時期に電力使用量を削減するための経済的インセンティブを、家庭や企業に提供するということだ。電力使用量が最大になる時間帯の価格を上げる、需要が少ない時間帯の価格を下げる、緊急時には直接的な対価の支払いを提供する、といった方法だ。
問題は、需要応答プログラムの存在を知っている人がまだ非常に少ないことだ。観測筋によると、州の電力事業者は需要応答プログラムのマーケティング、エネルギー需要を最適な時間帯にシフトするための設計、顧客とのリアルタイムなコミュニケーション、適切なインセンティブの提供などの役割を十分に担っていない。
セリュリエ部長は、これは機会損失だといい、住民が蒸し暑い夏の日の夕方にサーモスタットの温度を数度上げるような重大な協力をした場合に、電力料金の一部を送電網事業者または電力会社が負担するようになれば、電力システムの安定性は大きく改善する可能性があると指摘する。
「西部の州の送電網事業者や公共事業は、1時間ごとの電力量を目を皿のようにして注視はしていますが、誰かの自発的な行動にお金を払う気はありません」(セリュリエ部長)
カリフォルニア州の停電の正確な原因が何であれ、気候変動の危険が高まる中、長年の懸案だった電力システムや実務の刷新が必要であることは明らかだ。