今年の夏は、生命の痕跡を探る米国航空宇宙局(NASA)の新型探査機「パーサビアランス(Perseverance)」をはじめとして火星への3つのミッションの打ち上げ予定があり、かの赤い惑星の探査は大きな躍進を遂げるだろう。人々が火星探査に熱中するのも無理はない。火星は、月を除いて人類が1世代以内に到達できるであろう唯一の惑星であるからだ。もし他の世界を訪ねることを夢見るなら、火星に行くのが現実的だ。科学的な観点から見ても、それが理にかなっている。ルイジアナ州立大学の惑星科学者であるスニティ・カルナティレイク准教授は、火星が火山、堆積岩層、水でできた極冠といった現在の地球で見られる主要な地質作用の大半の証拠を持つ太陽系で唯一の岩石惑星だと主張する。
だが、火星に執着するあまり太陽系の他の天体を無視することになっていないだろうか。そろそろ見直すべき時かもしれない。火星に対する熱狂は、より多くのリソースが火星探査に費やされ、新しい発見がもたらされてさらに関心が高まり、結果として公的機関や民間企業がより多くの資金を火星探査に投入するというフィードバック・ループを促す傾向がある。
もちろん火星の研究は重要だが、比較的近くにある他の天体の探査を開始するべき正当な理由がある。最も近くから最も遠くまで、詳細に調査すべき5つの太陽系内の天体について以下に述べる。
金星
金星は、物事が少し違う方向に行っていたら地球がどうなっていたかを物語っている。金星は大きさ、質量、地質構造が地球と似ている。また、どちらの惑星も似たような地質学的歴史があり、特に火山活動が似ている(金星にはいまだに活火山があることを示すデータもある)。火星がそうであるように、金星も地球と同じような道をたどって成長し、進化してきたようだ。
しかし現在、金星はこれまでに研究されてきた惑星の中で最も大気の密度が高く、その96%以上が二酸化炭素だ。地表での気圧は、地球の水深900mに相当する。地表の温度は464°Cで、水星よりも高い。温室効果ガスが暴走し、生物がまったく住めない環境になっている。おそらく遠い将来、地球がそうなる可能性が高い極端な例だ。
金星は調査するのが難しいため、謎に包まれている。宇宙から観測すると、硫酸の雲で地表が覆われている。非常に高温の熱と圧力により、ほとんどの電子機器や着陸装置は短時間で壊れてしまう。今のところ、表面を調査するにはレーダー以外に方法がない。2005年に打ち上げられた欧州宇宙機関(ESA)の探査機「ビーナス・エクスプレス(Venus Express)」は金星の詳細な調査に成功した最後の大規模ミッションであり、1985年の旧ソ連のミッション「ベガ(Vega)」は金星に送られた最後の大規模な着陸船となった。カルナティレイク准教授は「火星と比べて詳細な文献が少ないのは、こうした理由によります」 と言う。「そのため、科学者たちは、金星を深く研究し、同様の調査を続けるために次の世代を指導することができませんでした」(同)。
この状況はまもなく変わるだろう。ここ数年、金星探査に関して新しい提案がなされている。最も注目を集めているのは、「ダビンチ+(DAVINCI+)」(大気を調査す …