KADOKAWA Technology Review
×
【冬割】 年間購読料20%オフキャンペーン実施中!
中国と世界をつなぐ
「ウィーチャット禁止」の
深刻すぎる影響
Ms Tech | Pexels
人間とテクノロジー 無料会員限定
The human cost of a WeChat ban: severing a hundred million ties

中国と世界をつなぐ
「ウィーチャット禁止」の
深刻すぎる影響

トランプ大統領は8月6日、ウィーチャットおよびティックトックが関わる取引を45日以内に禁止するという大統領令に署名した。ウィーチャット禁止が現実のものとなれば、企業やジャーナリスト、研究者たちに多大な影響が出るだけでなく、両国の長期的な対立につながっていく恐れがある。 by Karen Hao2020.08.18

1989年1月、当時26歳だった私の父はそれまでの生活を捨てて世界の反対側へと向かった。父は中国を出たことはおろか、飛行機に乗ったことさえなかった。だが、米国人の教授から受けた博士研究員のオファーは、父にとって断ることのできないものだった。

米国に降り立った父は、空港の公衆電話から到着を告げる電話を一度だけ掛けた。連絡先は実家ではなく、大学だった。所持金は100ドルで、国際電話は通話料が高すぎた。今でも田舎の実家に暮らしている父の両親は、どのみち電話を持っていなかった。それから7年間、高い金を払って飛行機で実家に帰るというのは論外だった。代わりに父は、手紙で家族と連絡をとった。父は米国のこと、自分のプログラムのこと、そして新しい妻、つまり私の母のことなどを手紙に書いた。

祖父母の村で電話が利用できるようになったのは、私が生まれた後だった。連絡が取れるように電話を1台設置してくれと父が彼らに頼んだのだ。当時も国際電話は法外な通話料がかかったが、よりスムーズなコミュニケーションが確実に取れるようになるということで、それだけの価値があった。こうして毎週の儀式が始まった。父が祖父母に電話をかけ、近況を語り、彼らの話に熱心に耳を傾けた。

ウィーチャット(WeChat)が父の人生を変えたというのは誇張ではない。2010年代中頃、ウィーチャットはメッセージ、ソーシャルメディア、決済、その他日々のサービスのハブとして人気を獲得した。父は携帯電話のデータ通信を使わずにビデオ通話ができるように、祖父母にインターネット回線を引くよう求めた。また、父はついに自分の兄弟たちと連絡が取れるようになり、旧友とのつながりを取り戻した。ウィーチャットは中国のグレート・ファイアウォールを貫く、欠かせないデジタルリンクになったのだ。

しかし現在、このつながりが今後も維持されるかどうか分からない状況になっている。8月6日、トランプ大統領は2つの大統領令に署名した。内容は、ウィーチャットおよびティックトック(TikTok)を利用した米国からの「取引」を45日以内に禁止するというものである。禁止の範囲がどの程度に及ぶのかは誰にも分からない。絶対的なものなのか、何らかの回避策があるのか。適用は米国内だけなのか、それとも世界中のアップルおよびグーグルのアプリストアからウィーチャットが削除されるのかといったことは分からない。

父はそれほどひどいことにはならないはずだと楽観視しているが、楽観的にでもならなければやっていけないということなのかもしれない。ある日、目が覚めたらウィーチャットへのアクセスが失われているという事態を父は恐れている。「ウィーチャットが禁止されたら、私はウィーチャットの家族グループから消えてしまう」と父は言う。「すべてが変わってしまい、私の人生に大きな影響を与えることになるだろう」。

理解の喪失

分析企業のアップトピア(Apptopia)によると、米国では推定1900万人が日常的にウィーチャットを利用しているという。この1900万人という数字は、少なくともその10倍のつながりがウィーチャットに存在していることを示している。つま …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
【冬割】実施中! 年間購読料20%オフ!
人気の記事ランキング
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る