新型コロナの症状長期化、
患者がスラックで自主研究
新型コロナウイルスに感染してから長期間にわたって回復せず、症状に苦しんでいる人々がいる。医師ですら実態を把握していないこうした患者自身が、ソーシャルメディア上で結束してコミュニティを形成し、独自の調査を実施している。 by Tanya Basu2020.08.19
ジーナ・アサフは3月19日にワシントンD.C.でランニングをしていたとき、突然、一歩も動けなくなった。「ひどい息切れがして立ち止まるしかありませんでした」。その5日前、アサフはある友人と一緒に過ごしていた。それから数日も経たないうちに、その友人とパートナーに新型コロナ感染症(COVID-19)の典型的な3つの症状である、熱、咳、そして息切れが現れた。
アサフにもこうした症状があったが、その後、別の症状も現れた。2週目までにアサフは胸が焼けるように熱く、めまいがして「自分の体にとって最も恐ろしく辛い時期」だったという。友人は回復したが、アサフはまだ「くたくたに疲れていました」。病気になって丸1カ月後、アサフは食料品店に行こうとしたが、結局、数日間ベッドで過ごした。
当初、アサフは新型コロナウイルスの検査を受けられなかった。コンピューター上で診察をした医師からは、不安による心身症、もしくは何かのアレルギーかもしれないと言われた。「とても孤独に感じ、困惑しました。医師は何の答えも出さず、助けにはなりませんでした」とアサフは言う。症状は今も続いている。
症状を感じてから数カ月のうちにアサフは、新型コロナ感染症患者のためのスラック(Slack)の支援グループの中に、自分と似た状況の人を大勢見つけた。同グループには、自らを「長距離輸送者(long-haulers)」と名乗る人が数百人いた。これは、感染後に病気が長期化する人を表すときに最もよく使われている呼び方だ。
その支援グループでアサフは、「長距離輸送者」たちが自分自身を理解しようとしていることに気づいた。感染者の血液型は同じか? 決まった時間に検査を受けたか? 地理的な共通点や人口統計学的な属性の共通点はあるのか?
技術設計コンサルタントであるアサフは、同グループ内で「#research-group」というチャンネルを始めた。23人からなるチームで、6人の科学者と調査設計者が中心となり、グーグル・フォームで質問を集め始めた。4月には、彼らと似たような「長距離輸送者」のために、スラックの支援グループ内や他のソーシャルメディア上にフォームを公開した。
5月になり、同グループは「新型コロナウイルス感染症のための患者主導の研究(Patient-Led Research for Covid-19)」という名前で、最初の調査結果を発表した。640人の回答を基にした、おそらくこれまでで最も詳しい「長距離輸送者」の調査で、回復に時間がかかっていたり、または「かなり」時間がかかっていたりする特定の新型コロナウイルス患者の生活がどのようなものかを知る手がかりとなる。
最近まで、人間が新型コロナウイルスを長期間保持する可能性があるとは、ほとんど考えられていなかった。医師は依然として、このような患者をどう扱っていいか分かっていない。パンデミックの初期、感染した人が辿る道は回復するか死ぬかの2つに1つだった。「長距離輸送者」はこのどちらでもない。
第3の道の存在が認められるようになってきたのは最近だ。7月末になってようやく、米国疾病予防管理センター(CDC)は、入院するほどではない患者の3分の1が完全に回復しないことを認める 論文を発表した。
ニューヨークのマウント・サイナイ病院ポスト=コビット・ケアセンターの医長であるジジアン・チェンらは4月下旬ごろ、新型コロナウイルス感染症から回復しない患者がいることに気づいた。チェン医長は「患者にさらなる治療が必要だと気づいたのはそのときです」と言う。
しかし、何が必要なのかはまだはっきりしない。問題の一部は、「長距離輸送者」を構成するものの定義がないことだ。マウント・サイナイのプログラムには「新型コロナウイルスの検査で陽性になった患者で、最初の感染から1カ月以上症状が続く人」が含まれるとチェン医長は言う。
「患者主導の研究」チームの調査は、2週間以上症状を感じている患者を対象にしている。重要なのは、症状を報告した回答者の中で、検査が受けられずにチェン医長らのプログラムから除外された人もいたことだ。米国疾病予防管理センターの論文は 、検査で陽性となってから14日から21日後に実施された被験者への聞き取りに基づいている。
チェン医長は「長距離輸送者」の症状をより理解するために、臨床ケアと研究を実施したいと考えている。しかし、パンデミックの最中に時間や人員を投入することは難しいという。
慢性疾患コミュニティの動向を研究するスザンナ・フォックスは、アサフが始めたような患者主導の研究グループは、特に医師や科学者が多忙で手が回らないときに、医学研究者から注目を …
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