「保護」から「共有」へ大転換、EUの新データ戦略は何を意味するか
欧州連合(EU)は2月、個人データの保護を重視する従来のデータガバナンス戦略を転換し、市民の個人データの共有と収益化を促進するトラスト・プロジェクトを2022年までに立ち上げることを発表した。 by Anna Artyushina2020.08.18
欧州連合(EU)は、長い間、プライバシー規制での先駆者であった。EUの一般データ保護規則(GDPR)と厳格な独占禁止法は、世界中で新たな法制が生まれる原動力となった。何十年もの間、EUは個人データの保護を制定法化し、個人の秘密の商業利用とみなされる行為と戦い、米国の緩やかなプライバシー政策とは堂々たる対照をなしてきた。
しかし、新たな欧州データガバナンス戦略は、これまでとは根本的に異なる態勢をとる。EUは同戦略で、市民の個人データの使用と収益化を促進する積極的な立役者となるつもりだ。2020年2月に欧州委員会が発表した欧州データガバナンス戦略は、今後5年間に展開される政策と投資の概要を示すものだ。
この新戦略は、欧州連合の重点が、個人のプライバシーを保護することから、データ共有を市民の義務として促進することに一大転換したことを示している。具体的には、データトラスト(データ信託)と呼ばれる仕組みにより、個人データの汎欧州市場を創設する。データトラストは、市民のデータを市民に代わって管理し、顧客であるそれらの市民に対して信認義務を負う管理者である。
欧州データガバナンス戦略では、個人データを欧州の重要な資産とみなす。しかし、このアプローチはいくつかの問題も引き起こす。第1に、EUが自ら収集した個人データから利益を得ようという意図は、産業を規制する欧州の政府の立場を弱める。第2に、データトラストの不適切な使用は、市民自身のデータに対する権利を事実上、はく奪することになり得る。
この新たなEUの政策で提示された最初の取り組みである「トラスト・プロジェクト(Trusts Project)」は、2022年までに実行されることになっている。700万ユーロの予算を投じる同プロジェクトでは、個人および非個人の情報の汎欧州共同体を設立する。それは、市民の情報にアクセスしようとする企業や政府のためのワンストップ・ショップとなるはずだ。
世界中のテック企業は、欧州在住者のデータを保存したり移動したりすることを許されず、トラストを通じてアクセスしなければならない。市民は「データ配当」を受け取ることになる。「データ配当」は、明確に定義されていないが、自分の個人データを使用する企業からの金銭もしくは金銭以外の支払いなどかもしれない。欧州の約5億人の市民がデータソースとなるこのトラストは、世界最大の …
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