ガートナーの有名なハイプ・サイクルに倣うなら、今の接触者追跡アプリは間違いなく「幻滅期の底」にあるという結論は避けがたい。接触者追跡アプリが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との戦いにおいて重要な武器になるだろうという当初の興奮は、大金と多大な時間を割いたにも関わらず全てが無駄に終わるのではないかという恐怖に取って代わられている。多くの国ではアプリの利用率が低く、ノルウェーや英国では運用停止にまでなっている。
一方、米国では、接触者追跡アプリの導入が非常に遅れている。シンガポールは3月に「トレース・トゥギャザー(TraceTogether)」というアプリの運用を開始しており、スイスは5月にグーグルとアップルの接触通知システムを使ったアプリをリリースした初の国になった。
アップルとグーグルのシステムを使用した接触者追跡アプリの運用を米国で初めて開始したのはヴァージニア州だ。スイスの例から3カ月後となる8月に入ってからのことである。米国では連邦政府による連携対応が欠けているため、全国一律で共通のアプリを導入するのは不可能だろう。だが、少なくともさらに3州が同様のサービスの提供を計画している。
だが、アプリの導入が遅れたことには1つ重要な利点もある。それは、他国の失敗と成功から学ぶ機会があるということだ。
MITテクノロジーレビューはアイルランドとドイツのアプリ開発者たちを取材し、彼らが何を学んだのかについて話を聞いた。両国のアプリはMITテクノロジーレビューの「コビッド・トレーシング・トラッカー(Covid Tracing Tracker)」で上位にランク付けされている。コビッド・トレーシング・トラッカーは世界の接触者追跡アプリの開発および展開状況をモニタリングするプロジェクトだ。
アイルランドは世界で最も接触者追跡アプリの導入率が高い国の1つで、アプリを公開した最初の週に国民の37%がアプリをダウンロードした。ドイツでは国民の20%以上がアプリをダウンロードしており、大きな成功例として称賛を集め、他国の政府にアプリの開発や導入方法について助言している。
だがいくつか注意点もある。アイルランドとドイツのシステムをはじめとする多くの非中央集権的なアプリは、プライバシー保護の観点から、送信している数多くの警告に関する情報を収集していない。そのため、一部の例では成功を定義するのが難しくなっている。
しかしそれでも、すべての国が米国や英国のようにアプリの展開において混乱を経験しているわけではない。これらの国々から他国に対してどのような助言が得られるのだろうか?
1. すべての症例が重要であるということを忘れない
まずは誤解を解いておこう。接触者追跡アプリが効果を発揮するために、市民の過半数がアプリを導入する必要はない。たとえ大きな効果は得られないとしても、こうしたアプリは導入率が低くても機能する。そのため、完全かゼロかという考え方は止めるべきだ。
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