今日ある火星は、冷たく水気のない荒地だ。しかし、数十億年前はずいぶんと違っていた可能性が高い。1970年代に火星への無人探査に着手し始めて以来、科学者たちはこの「赤い惑星」に、もっと温暖で水が存在した過去があったことを示す証拠を集めてきた。地表は湖や海で溢れ、そこにはある種の生命が存在した可能性がある。7月30日に米国航空宇宙局(NASA)が新たに製造した探査車(ローバー)を打ち上げた目的の1つは、かつて存在した宇宙人の痕跡を探し求めることだ。
しかし、火星が過去、実際にどのような様子だったのかについては、完全に一致した見解はまだ存在しない。アリゾナ州立大学のアンナ・グロウ・ガロフレ博士は、「初期の火星の気候をめぐる議論は、40年前から続いています」と述べる。ガロフレ博士はネイチャー・ジオサイエンス(Nature Geoscience)誌に掲載された、火星に水が存在したというこれまでの夢をひっくり返す新たな研究の主執筆者だ。ガロフレ博士の研究は、火星の古代の風景が、熱帯地帯よりも南極大陸に近いものだったという新しい発見を示唆している。火星の地形的な特徴の多くは、頻繁に降る雨が潤す川や水路の流れによって切り出されたと考えられてきたが、ガロフレ博士の研究では、実際には巨大な氷河と氷床が時間をかけて融解した結果である可能性を示している。
この新たな研究が注目しているのは、火星南部の高地に位置する複数の谷で、過去に何が起きてきたのかだ。ガロフレ博士は、「過去の研究では、火星に広がるバレー・ネットワークの起源として川の存在が指摘されてきた」と述べる。しかし、ガロフレ博士の研究では、「氷河の下を流れる水路に見られる典型的な特徴」を持ったシステムの一端が初めて特定されている。つまり、これらの谷を約38億年前に掘り出したのは、流れる川ではなく融 …