イーライリリー、受動免疫で新型コロナ感染を防ぐ抗体薬を治験へ
イーライリリーは、介護施設の看護師と患者2400人を対象に、抗体薬の投与により「受動免疫」を獲得させる治験を実施する。抗体薬は、「能動免疫」を獲得させるワクチンより先に市場に出る可能性がある。 by Antonio Regalado2020.08.06
米国の製薬企業イーライリリーは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染を防ぐ抗体薬を、米国の複数の介護施設の看護師と患者に投与する治験を実施すると発表した。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの初期、複数の製薬企業が、同感染症から回復した患者の血液から新型コロナウイルスに対抗する力がある抗体を探した。イーライリリーの治療薬は、より大きな規模で産生されている自然抗体であるY字型タンパク質の1つである。
イーライリリーは、米国立衛生研究所(NIH)と協力して、新型コロナウイルスの感染が起こった介護施設を対象に、2400人が参加する治験を実施する。米国の一部の地域では、介護施設の高齢入居者が新型コロナウイルス感染症による死者の大半を占めている。
自然抗体と同様、イーライリリーが開発した抗体は、ウイルスに結合することでウイルスが細胞に侵入するのを防ぐとされている。同様の抗体薬がエボラ出血熱の治療に効果的であることが示されているが、今回の研究の目標は、抗体薬を早期に投与して感染症を予防することである。抗体を用いた感染症予防は有効であることが知られており、赤ちゃんに投与する抗体薬で、新生児の呼吸器感染症であるRSV(呼吸器合胞体ウイルス)感染症を防ぐ治療薬が存在する。
ワクチンは体を病原体の一部に曝露させることで体内に「能動免疫」を獲得させ、体が自ら病原体に対する抗体を産生できる状態にする。一方、抗体の投与は、抗体が存在する間のみ持続する「受動免疫」を人工的に与える。研究者によると、静脈注射で投与される抗体は通常、血液内に数週間から数カ月留まっているという。
抗体薬はワクチンより先に市場に出る可能性があり、医療従事者と最も感染リスクの高い人々を保護する重要な手段となる可能性がある。米国生物兵器防衛機関(American Biodefense Institute)は、8月3日に発表した報告で、受動免疫は「次世代のパンデミック対応策」だと述べている。
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- MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。