富裕層向けハイテク医療サービス 月額149ドルで受診し放題
今風の内装、活動量計、サブスクリプション・モデルで、診察を変えようとする保健スタートアップ企業がある。 by Rachel Metz2017.01.18
病院というよりもアップルストアとジムと組み合わさせたような診察室を想像してみよう。白壁と木目を組み合わせた現代的な美しさがある室内には、目新しい電子機器とまばゆいほどのタッチ画面が並んでいる。月額払いで、何度診察を受けても構わない。
先週、サンフランシスコの保健衛生スタートアップ企業フォワードの取材で訪れたのは、同社が運営するそんな環境の新しい内科診療所(金融街にあり、開設は火曜日)だった。
フォワードは、高コレステロールや子宮頸がん検査、出発が迫る海外旅行のワクチン接種など、困った時に使える各種サービスを組み合わせ、さらに診療所と、ウェアラブル機器やスマホアプリから利用者が自宅にいる間のデータも収集する。自宅では、ウェアラブル機器やフォワードのスマホ向けアプリ経由でデータが集められる。診療所には薬局も併設されている。フォワードの医師が1回目に処方する薬はどれも無料だ。また、診療所で採血し、その場で素早く解析する血液検査サービスが付属しており、医師が受診者に持ち帰らせるウェアラブル機器も無料だ。ただし、健康保険は使えない。
創業者であるアドリアン・アウンCEOによると、フォワードは患者が医者にかかるときのあり方を変えたいという。ほとんどの人は、病気にかかったり、妙な発疹があったりした時だけ診察を予約する。しかし、年に1、2回医者に診てもらっても「その間も身体は健康の心配をしている」とアウンCEOはいう。フォワードはシリコンバレー流の高級専属医サービスで、月額料金は149ドルだ。
シリコンバレーらしく、フォワードの売りはテッキーな医療サービスだ。フォワードの医師が受診者に付ける血圧計の腕帯(カフ)は無線式で、血圧測定を欠かさないよう、アプリが適宜通知してくれる。フォワードの医師にはアプリ経由でメッセージを送って相談できるし、活動量計とアプリを接続すれば、収集したデータを医師に送信できる(活動量計のデータに関心がない医師もいるが、フォワードのオリヤ・ヤクブ医師によれば、情報が完全に正確でなくても、患者の傾向を知る意味では役に立つという)。
また、フォワードのソフトウェアは患者を長期間見守り、何か異変がおきている場合は患者に知らせ、医師が最善の治療を考える参考になるという。
さて、フォワードの医療サービスを直接体験してみてどうだったかを述べよう。最初はやや圧倒された。待合室の天井には暖かい光を放つ照明が埋め込まれ、内装は木目調、デザイナーチェアが置かれ、落ち着いたBGMが流され、しかもガラス製の水のボトルが完璧に配置されていた。部屋の中心にガラスケースがあり、中にはさまざまなウェアラブル機器が並んでいた。
待合室で目立つ白く輝く見慣れない機械は、アウンCEOによれば身体計測器だ。機械の台に立ち、隣り合うセンサーに指を2本入れると、身長や体重、体温、脈拍、血中酸素濃度が計測された。計測結果は医師が読めるようにフォワードのソフトウェアと、受診者のスマホアプリにも送信される。
診察室では、以前フェイスブックで働いていたヤクブ医師が診察を再現してくれた。巨大なタッチ画面をタップすると、「運動と食事」や「医薬品」などさまざまな項目が表示され、患者に処方された血圧の薬の履歴といった情報も引き出せる。ヤクブ医師が無線式の聴診器を胸にあてると、心臓の鼓動のリズムが目の前の画面に映し出された。
アウンCEOによると、現在フォワードを利用している数百人のほとんどは、同社の予防型治療に毎月料金を支払える余裕のある人(フォワードは料金を支払う余裕のない人の一部に無料会員の資格を与えている)だ。しかし、手術や専門医に診察してもらう場合など、フォファードが提供していない治療や診察が必要になる場合に備えて、健康保険料も定期的にフォワードの会費以外に支払い続ける必要があるため、裕福ではなかったり、あるいは、すでに自己計量(QS)のアイデアを実践していたりするサンフランシスコ市民の多くにとって、フォワードが提供するサービス内容では売れにくいだろう。
しかし、ペンシルベニア大学のミテシュ・パテル助教授(医学・保健学)は、フォワードのサービスで最もメリットを得られるのは予防型治療に費用をかけられない層だ、という。
「実際、一定規模の人数の健康に影響を及ぼすには、医療サービスをあまり利用しない層をどう取り込むかを考えなければいけません」とパテル助教授はいう。
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クレジット | Images courtesy of Forward |
- レイチェル メッツ [Rachel Metz]米国版 モバイル担当上級編集者
- MIT Technology Reviewのモバイル担当上級編集者。幅広い範囲のスタートアップを取材する一方、支局のあるサンフランシスコ周辺で手に入るガジェットのレビュー記事も執筆しています。テックイノベーションに強い関心があり、次に起きる大きなことは何か、いつも探しています。2012年の初めにMIT Technology Reviewに加わる前はAP通信でテクノロジー担当の記者を5年務め、アップル、アマゾン、eBayなどの企業を担当して、レビュー記事を執筆していました。また、フリーランス記者として、New York Times向けにテクノロジーや犯罪記事を書いていたこともあります。カリフォルニア州パロアルト育ちで、ヒューレット・パッカードやグーグルが日常の光景の一部になっていましたが、2003年まで、テック企業の取材はまったく興味がありませんでした。転機は、偶然にパロアルト合同学区の無線LANネットワークに重大なセキュリテイ上の問題があるネタを掴んだことで訪れました。生徒の心理状態をフルネームで記載した取り扱い注意情報を、Wi-Fi経由で誰でも読み取れたのです。MIT Technology Reviewの仕事が忙しくないときは、ベイエリアでサイクリングしています。