「マスク着用」で大揉め、
サービス業従事者たちの戦い
飲食店など対面接客をせざるを得ないサービス業従事者に対して、マスク着用に反対する客が「攻撃」する事態が日常的に発生している。ネット上ではサービス業従事者たちが結束を強める一方、マスク着用反対派グループの動きも活発化している。 by Abby Ohlheiser2020.07.29
モーガン・エックロスはティックトック(TikTok)で「モーガンドリンクスコーヒー(morgandrinkscoffee)」として有名になった。オレゴン州コーバリスにあるトライド&トゥルー・コーヒー(Tried & True Coffee)のバリスタ兼ソーシャルメディア・マネージャーを務める21歳の彼女は、ラテアートや、客とのやり取りのドラマ風の再現、飲み物に関するチュートリアルなどを400万人のフォロワーに共有している。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが起こる以前の彼女のコンテンツは極めて健全なものだった。エックロスは自分の仕事が好きなのだ。しかし今年5月、現金を扱わないという店の安全性方針に怒った客が、彼女を含む店員をトウガラシ・スプレーで襲撃する事件が起こった。
エックロスはこの事件に関する動画をティックトックに投稿した。動画には穏やかな音楽が流れ、ベッドに横たわる彼女は寝具を引っ張り上げて口と鼻を覆っている。そして、「私たちはお客様とスタッフの安全を保とうとしているだけなのに、なぜこんな目に遭わなければならないの?」と字幕で語っている。動画は130万回以上視聴され、コメント欄にはエックロスへの応援の言葉が溢れている。
米国ではほぼ毎日のように、サービス業に従事する人々と、パンデミック関連の安全性要件に対して怒りを露わにする買い物客や食事客とのいさかいがニュースになっている。ティックトックでやり取りされるメッセージや、フェイスブックの非公開グループ、その他さまざまな半プライベートのオンライン空間は、こうしたストレスに対処しようとしている労働者たちにとっての自家製セラピーの場になっている。だが、サービス業従事者たちがお互いを支援し合うエコシステムの一方では、別の組織的構造が存在する。マスク着用やその他の安全性要件に縛られることを拒む米国人たちによるプライベート、あるいは半プライベートなオンライン空間だ。こうした人々「マスク反対派」はマスク政策に対する抗議やボイコットを促し、公共の場でマスクを着用しない人々を支援している。
他のあらゆるオンライン情報戦と同じく、こういった話は人々の注目を引こうと争っている。ソーシャルメディアは、デマの拡散者にとっては多くの人々の注目を集めるのに依然として非常に効果的なプラットフォームだ。だが、動機が無関心であれ積極行動主義であれ、マスクを着用しない客はサービス業従事者にとって強いストレス要因となっている。サービス業従事者たちは、店舗やレストランのパンデミックに関する安全対策の実施をほぼ一任されてしまっている。働き手たちはソーシャルメディア上で声を上げ、客とのいさかいによって受けたメンタルヘルスへの悪影響について語っている。
「接客業の分野で働く人々の間に、新しい形の結束が生まれています」とエックロスは言う。「私たちの大半はパンデミックの中でも対面で働かざるを得ない状況で、最低賃金に近いような収入しか得られません。そんな状況が、オンライン上に全く新しいコミュニティを生み出しました」。
ティックトックは新型コロナウイルスのパンデミック発生以前からすでに、小売や飲食業界で働く労働者たちにとって安息の地のようなものになっていた。レストランや小売チェーンの従業員はティックトック上で愚痴をこぼしたり、日々の仕事での出来事をシェアしてきた。そんな中で今回のパンデミックが起こり、ジョークやミームの投稿は、働く店に現れた反マスクの行動主義者たちから受けた暴行や脅迫、言葉による暴力に関する投稿へと変わっていった。突如として、クリエイターと視聴者のクラスターが、ある種の支援グループになったのだ。
他の場所にも支援は拡がっている。「新型コロナ禍での小売業の日常(Retail Life during Covid-19)」と呼ばれるフェイスブックの非公開グループには5000人のメンバーがおり、客とのいさかいや、マネージャーからの混乱するような指令、失業手当の支払いの遅れなどについて愚痴をこぼし合っている。今、店舗で働くということは「私やあなたのことなどどうでもいいと思っている人たちに人質にされている」ようなものだとあるメンバーは書いている。匿名で取材に応じたこの人 …
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