新型コロナ・ワクチン開発競争にハッカーが参戦、ロシア関与か
ロシアの諜報部門が関係するとみられるハッカーが、新型コロナウイルス感染症のワクチン開発者を標的にしていることが分かった。 by Patrick Howell O'Neill2020.07.22
英国や米国、カナダの情報当局の報告によると、これら3カ国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンを開発している研究者が、ロシアのハッカーの標的となっていたことが分かった。
犯行が疑われているのは、「コージー・ベア(Cozy Bear)」もしくは「APT29」と呼ばれるロシア諜報部門のハッキング集団。「コージー」の名は、過去に注目された多くのサイバー諜報活動で聞き覚えがあるかもしれない。中でも有名なのが、2016年の米民主党全国委員会へのハッキング事件だ。
7月16日には英国の国家サイバーセキュリティ・センターが、「2020年を通じて、APT29はカナダや米国、英国で新型コロナウイルス感染症のワクチン開発に従事する、さまざまな組織を標的としている。ワクチンの開発・テストに関わる情報や知的財産を盗む意図があると強く疑われる」と発表した。
不確かな時代には、いつもスパイ活動が増える。今回のパンデミック(世界的流行)が世界にもたらしたことは、不確定要素がそこかしこに登場したことだろう。2020年初頭にはベトナムのハッカーが中国政府の省庁を狙い、当時すでに起きつつあった危機に関するデータを収集していたとされる。5月には、それぞれイラン政府と中国政府の支援を受けた複数のハッカーが、ワクチンの研究内容を盗み出そうとして告発された。ワクチンの世界的な開発競争も、2020年の構造的な地政学から自由ではないことの証左だと言える。
各国が医療従事者や軍関係者などを守るためのワクチンを確保しようと競い合う中、ワクチン開発競争には大きな政治的利害が関係している。米国の「ワープ・スピード(Warp Speed)」計画では、自国分のワクチンを確保するために何十億ドルもの資金が投入されている。各国は、自国民の接種分を確保するためにあらゆる交渉手段を使うことが想定される。ロシアの場合、スパイ活動の成果もそこに含まれるということだろう。
もっとも、ほとんどの場合、ワクチン自体は秘密情報ではない。科学的な報告書で説明され、成分も既知の情報だ。だが、製造の詳細データや供給契約といった情報には盗むだけの価値があるかもしれない。科学者にも、ワクチンを狙うハッカーにも、最大の疑問である「ワクチンの効果はあるのか?」の答えがまだ分からないまま、ボランティアを使った大規模な研究が現在進行している。
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