イノベーションは私たちの世界の原動力だ。絶え間なく新しいアイデアが生まれ、新しいアイデアがテクノロジーや製品へと変貌することが、21世紀の社会を力強く支えている。実際、シリコンバレーのような地域以外にも、多くの大学や研究機関が、このプロセスの発展に寄与している。
しかし、イノベーションが起きる過程にはわからないことがある。経済学者や人類学者、進化生物学者からエンジニアまで、幅広い分野の研究者がイノベーションの過程を研究してきた。イノベーションがどのように起きるのか、どんな要素がイノベーションを突き動かしているのかを理解し、将来のイノベーションに最適な状況を作り出すことが研究の目標だ。
しかし、この手法によって得られた成果は限定的だ。まず、イノベーションの出現と消失の割合が丹念に測定された。割合は、科学者がさまざまな異なる状況で観察した、はっきりとした特徴のあるパターンに従っている。しかし、このパターンがどのように生まれるのか、また、なぜこのパターンがイノベーションを決定するのかを説明できた者はいない。
1月13日、ローマ・ラ・サピエンツァ大学(イタリア)のビトリオ・ロレート准教授の研究チームのおかげで、この謎が解明された。研究チームは、イノベーションが従うパターンを正確に再現する数理モデルを初めて作り上げたのだ。研究成果は、イノベーションについて、何ができるか、新しい可能性が既存のものからどう続くかの研究の新手法への道を切り開いた。
イノベーションが、現状と可能性の間の相互作用から生まれる概念は、複雑性理論学者のスチュワート・カウフマンによって形式化された。2002年、カウフマンは生物的進化を考える手法として「近接領域の可能性(adjacent possible)」の概念を導入したのだ。
近接領域の可能性とは、概念や言葉、歌、分子、ゲノム、テクノロジーなど、実際に存在するものから一歩離れたところにある全てのもののことだ。特定の事象を実際に認識することと、未知の領域にある可能性をつなげる概念だ。
しかし「近接領域の可能性」のモデル化は非常に難しい。未開拓の領域にある可能性、簡単に想像し、予測できるすべての物事を含むが、一方で、完全には予測できない、想像しえない物事も含んでいる。この重大な理由のため、未開拓の領域のモデル化は困難であり、想像しえない物事のモデル化はまず不可能だろう。
さらに、個々のイノベーションは将来の可能性の展望を一変させてしまう。したがって未開拓の領域の可能性、つまり「近接領域の可能性」は絶えず変化するのだ。
「近接領域の可能性にある創造の力は、逸話的なレベルでは広くその価値が認められてきましたが、私たちの見解ではありますが、科学の世界で、その重要性は軽視されています」と研究チームはいう。
しかし、こうした複雑性にもかかわらず、イノベーションは予測可能であり、普遍性のある「法則」として知られるよう …