「ズーム疲れ」解消、マイクロソフトがビデオ会議で逆転狙う新機能
新型コロナのパンデミックでビデオ会議ツール「ズーム」が一躍有名になる一方で、人々の「ズーム疲れ」が問題となっている。マイクロソフトはビデオ会議ツールに新機能を導入して対抗する。 by Tanya Basu2020.07.14
さまざまな場面で使われるようになったビデオ会議にログインした人々は、ある一定の行動を取りがちだ。テレビ番組「ゆかいなブレディー家」のオープニングさながらの四角形の並びに参加し、視線をスピーカーの間で左右させながら、だいたいは自分がどう見えているか気にして自分の顔ばかり見つめている。在宅で仕事をする画期的な方法として始まったビデオ会議は今や、人々のメンタルを消耗させる重労働となっている。
マイクロソフトは、解決策を考案したらしい。7月8日に同社はビデオ会議ツール「チームズ(Teams)」のアップデートの一部として、新機能である「トゥギャザー・モード(Together Mode)」を発表した。人工知能(AI)を用いてライブビデオ映像を切り抜き、背景の中の定位置に配置する機能だ。記者が参加したデモでは、背景は講堂に似たバーチャルな大教室の席だった。つまり、人が定位置にいるのが見えると、視線を向けたり、指差したりといった非言語的な合図が読み取りやすくなり、自然な会合により近くなるという考えだ。
収益性の高いビデオ会議の分野で、マイクロソフトは後手に回っている。パンデミックによるリモートワーク・ブームではズーム(Zoom)に追い抜かれた。ズームは実際、一夜にしてシリコンバレーの羨望の的となり、社会現象となり、動詞となった。
マイクロソフトはチームズ・プラットフォームとトゥギャザー・モードでズームに対抗できると考えている。学生と教職員という重要な層を掴んでいる点で、マイクロソフトは有利だろう。同社によると、175カ国の18万3千の教育機関がチームズを利用し、約1億5千万人の学生と教育関係者がリモート・ラーニングの軸としてマイクロソフト・エデュケーション(Microsoft Education)製品を利用している。
しかし、人々はビデオ会議に飽き飽きしつつある。仕事や学校だけでなく、デートや飲み会、祭日の集まりや、大切な人との会話まで何カ月もの間ビデオ会議を続けた結果、「ズーム疲れ」を感じるようになった。トゥギャザー・モードを監修した、コミュニケーション学を専門とするスタンフォード大学のジェレミー・ベーレンソン教授によると、典型的なビデオ会議のグリッドに映し出される顔は、現実に置き換えると、自分から約60センチメートルの距離にあるようなものだという。
「人を60センチの距離で1時間見つめ続けることは稀で、戦う時か交尾しようとしている時くらいのものです。いくつもの顔があなたをこうして見つめていると、覚醒反応が起き、闘争か逃走かの状態になります。1日中こうした状態になってしまうと、ビデオ会議をこなすのは消耗するでしょう」(ベーレンソン教授)。
マイクロソフトはトゥギャザー・モードでビデオ会議の負担を軽減できると考えている。例えば、ズームのギャラリー・モードでは、誰が発言しているのか、誰が発言しようとしているのかを把握することが難しい場合もある。トゥギャザー・モードはこの問題を、参加者を全員の画面の中で同じ位置に座らせることで理論上は解決している。つまり、バーチャル・ルームの中で右上にいる誰かが発言を始めたら、全員の視線はほぼ同じタイミングでその人に向かう。中央にいる誰かが割り込んだら、頭と目線がその方向に向かう。社内で実施したテストでは、トゥギャザー・モードのユーザーは、疲労感がより少なく、より集中できたとマイクロソフトは主張している。
しかし、トゥギャザー・モードに、チーム内の物静かなメンバーや無視されがちなメンバーに発言を促すような効果があるかどうかはまだわからない。より民主的なバーチャル・プラットフォームだと謳われてはいるが、女性は自分の意見を聞いてもらうのに苦心している。チームズ、ズーム、ミート(Meet)はいずれも、一助となるべく挙手機能を実装しており、またビデオ会議において女性の同僚を支援するガイド機能も一般的になりつつある。
マイクロソフトの研究者であり、複合現実の専門家であるジャロン・ラニアーは、「トゥギャザー・モードにより、利用者はより良く振る舞えるようになりますが、振る舞いが必ず良くなると保証するわけではありません」と述べる。
もう1つの懸念点、それは人々の顔そのものだ。デモで筆者は、顔が大きすぎあるいは小さすぎに見えないように、座り方を調節していた。ラニアーによると、それが集まりを民主的にするのに役立つからだ。しかし、自分自身に意識を向けて姿勢を直していると、議論の筋を見失うことが多々あった。つまり、自己意識が根本的な問題なのではないだろうか。
「自分自身に意識を向けるのを止められるよう、自分自身を消すことができるのが理想的なテクノロジーでしょう」。キーン州立大学のアンバー・デビソン准教授(コミュニケーション学)は述べる。親密さとコミュニケーションとテクノロジーの関連を研究するデビソン准教授によると、ビデオ会議がリアルの会議をエミュレートする手法は、人間同士の普通の関わり方とは大きく異なっていると言う。
「私は授業で教える時、自分を見ていません。(ビデオ会議に参加する)人々は不安になり、決してリラックスできません。自分自身に意識を向けすぎているからです。最善なテクノロジーは、自分が皆を見ることができ、皆も自分を見ることができ、自分は自分を見ることができないよう、自分自身の顔を消去することでしょう」。
デビソン准教授によると、トゥギャザー・モードが他と比べて優れている点は、背景の設定がパーソナルなものでないことと、分かりやすい席のレイアウトだ。パーソナライズされたズームの背景は楽しいが、デビソン准教授は、トゥギャザー・モードの提供するような統一されたシンプルな背景の方がプライベートと仕事を脳が混同しなくなるので良いという。
仕事とプライベートが融合しつつある状況で、その2つをきっちりと分けるというコンセプトこそが、パンデミック中のビデオ会議の究極の課題だといえる。誰しも羽を伸ばす場所が必要で、「それが家だと考えられていました」とデビソン准教授は言う。「しかし今や、人々は家で仕事をします。唯一のプライベート空間は侵略され、人々の脳に大きな負荷を与えています」。
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- 人間とテクノロジーの交差点を取材する上級記者。前職は、デイリー・ビースト(The Daily Beast)とインバース(Inverse)の科学編集者。健康と心理学に関する報道に従事していた。