インド政府が中国製アプリを締め出し、ティックトックも
インド政府がティックトックなどの中国製アプリの利用を禁止した。アプリやソーシャルメディアの政治利用が新たな外交手段となったことを象徴する出来事だ。 by Tanya Basu2020.07.06
インドは6月29日、ティックトック(TikTok)を含む中国製アプリ数十本の使用を禁止した。長年、両国が国境を争っているヒマラヤで緊張が高まり、武力衝突によって死者が出た2週間後のことだ。
インドは声明の中で、これらのアプリが「インドの主権、防衛、国家の安全、社会秩序を害している」と理由を説明。禁止リストには、バイドゥ(百度)やウィーチャット(WeChat)などのメッセージ・チャットアプリ、さらには人気ミニブログ・サイトのウェイボー(Weibo)や複数のモバイル・ゲーム、写真編集ソフトウェアも含まれている。
人口13億人のインドは、莫大なスマホ利用者と英語話者を抱え、世界最大のソーシャルメディア市場となっている。ティックトックは2019年末にはインドで約1億9100万件ダウンロードされており、同社にとって最大の市場だ(同年の米国のティックトックのダウンロード数は約4100万件で、大差で2位)。
ティックトックとワッツアップは、インド極右のヒンドゥー・ナショナリズム運動に武器として使われ、死者も出している。ワッツアップのメッセージがデマ拡散に使われ、イスラム教徒やカースト下位のヒンドゥー教徒への集団リンチにつながった。一方、ティックトックの画面分割動画もカースト・ヘイトクライムに使われてている。また、2019年には本誌が報じたように、ヒンドゥー至上主義者らがティックトックに大量の女性蔑視動画を流し、カシミールの少女や女性と強制結婚させてイスラム教徒が多数を占めるジャンムー・カシミール州でイスラム教徒の人口を追い越し、「ヒンドゥー教徒の地に変える」と脅迫した。
ティックトックは前身となるミュージカリー(Musical.ly)を2019年にインドで立ち上げ、リップシンク(クチパク)・アプリとして人気を博した。だが、総選挙直前、インドの裁判所はミュージカリーに性的・暴力的な内容が含まれているとして利用禁止を命令。最高裁判は禁止令を撤回したが、昨年7月には電子・情報技術相(今回の禁止令を命じた人物)がティックトックは「違法な」目的で使用されており、特にボットを通じて中国とユーザー・データを共有していると発言した。当時、ティックトックは禁止されなかったものの、その後大量の女性蔑視的コンテンツの存在が明らかになった。
インドにおける中国アプリ禁止は新たな外交手段だ。インドと中国は長く続く衝突の中で新たな段階に到達した。両国とも核保有国であり経済大国だが、インドのアプリ禁止令は、敵に政治的圧力をかける手段としてソーシャルメディアを利用した点で注目に値する。
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- 人間とテクノロジーの交差点を取材する上級記者。前職は、デイリー・ビースト(The Daily Beast)とインバース(Inverse)の科学編集者。健康と心理学に関する報道に従事していた。