細菌はマイクロメートルサイズの機械の動力源になる
0.001mm(1000ナノメートル)サイズの機械の動力に、細菌を馬車のように使えるかもしれない。 by Emerging Technology from the arXiv2017.01.13
細菌はさまざまな興味深い移動メカニズムを組み合わせている。移動メカニズムがあるので、細菌は獲物を追いかけたり、生物膜を生成したり、単純に集合したりできる。
この事実から、別の興味深い疑問が浮かび上がってくる。移動できるなら、細菌はどれだけの力が発生させて移動しているのだろうか? 言い換えれば、細菌はどれくらい強くものを押せるのだろうか?
1月11日、プリンストン大学のジョシュア・シェビッツ教授、ベネディクト・サバス研究員、ハワード・ストーン教授のおかげで、答えがわかった。研究チームは最近が生み出す小さな力の測定方法を開発し、細菌が押したり突き進んだりするときに体重以上の力を発揮することを明らかにしたのだ。
一般的な細菌細胞は、体長わずか数マイクロメーター、体重は約10-15kgしかない。重力下で、ひとつの細胞は約10fN(フェムト・ニュートン)の力を出す。この力を測定するのは簡単ではない。
研究チームは、「牽引力顕微鏡」で測定することにした。細菌が動くとき、周囲の柔らかい物質が変形する様子を観測する手法だ。つまり、変形を測定することで、加わった力を見積れるのだ。
牽引力顕微鏡の実験では、細菌をゲル状の物質(キトサンでコーティングされたポリアクリルアミドでできた、柔らかく弾力のある薄膜)の上に置き、細菌が動く様子を顕微鏡で写真撮影する。この薄膜には、どれだけの力が加わって変形したのかを簡単に見積もれる非常に特徴的な物質的特性がある。
しかし、変形が小さければ観測も困難だ。そこでゲルには物質の変形に沿って動いて観測しやすくする2色のマイクロビーズが混ぜられている。細胞が地面を移動するときにマイクロビーズの位置がどう変化するかを使って、細胞の移動による変形を見積もるわけだ。
研究チームは、2つのメカニズムを使って移動する粘液細菌で実験することにした。ひとつのメカニズムは、地面に接する細胞膜が生物の移動に沿って無限軌道のように働く滑走運動だ。滑走するひとつ細胞が産み出す力はたった数pN(10-12ニュートン)で、ゲルを変形させるにはまったく足りない力だ。「我々は、個々の細胞の滑走運動は摩擦低減のプロセスであって、環境に力学的な影響はほとんど与えないと結論付けました」と研究チームはいう。
しかし、粘液細菌にはもうひとつの強力な移動メカニズムがある。それぞれの細胞が進行方向の地面にかぎ爪のような「線毛」と呼ばれる小さな毛状の突起を生成して突き出すのだ。線毛を手繰ることで、細菌は秒速約1マイクロメーター(1秒間に自分の体の長さ分)自分を引っ張る。
研究チームによれば、この場合、ひとつの細胞が生み出す力は平均約50pN(ピコ・ニュートン)で、滑走運動よりも10倍大きい。
しかも細菌はたいてい集団で移動するので、集団の力を合わせて考えれば力はもっと大きくなりうる。測定結果によれば、細菌の集団が100pN以上の力を生み出すことを示している。
この興味深い働きは、細菌に少なくともある種の機関車の装置のような能力があることを明らかにした。
しかし、依然として多くの不明点が残る。たとえば、この種の牽引力顕微鏡の解像度である約0.5マクロメーターで以下の変形は測定できない。そのため、この手法ではより小さなサイズで起きているかもしれない活動を見落としてしまう。
細菌の動きに関連する謎は他にも数多くある。たとえば、粘液細菌がなぜ硬い寒天よりも柔らかい寒天の上を速く移動できるのかは誰にもわからない。しかし、今回の研究は、この疑問を解くヒントになりそうだ。
さらに興味深いのは、細菌の動きを利用する方法だ。もし細菌の動きが力を生み出すなら、レバーを押したり、スイッチを操作したり、ハムスターの回し車を回転させたり、貨物を運んだりするのに使わない手はないはずだ。 細菌が動力源のディズニーランドを想像するのは難しいことではない。
もちろん、このサイズの機械は、人間のサイズの機械とは完全に異なる方法で動作する。慣性がわずかにしか働かない一方、ファンデルワールス力(分子間に働く力)など、他の影響がとても大きく作用する。微小電子機械装置の設計者には既知の事実だが、ひょっとすると細菌が役に立つのかもしれない。
実際、バクテリアが移動に用いる集合的な動力が、いつの日かマイクロメーターサイズの世界で機械を作る研究のためになるのは、想像を超えるような話ではない。
参照:arxiv.org/abs/1701.00524: 移動する細菌の集団による集合的な動力の生成
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