英国は、現在提供中の新型コロナウイルス接触者追跡アプリを捨て、新たにアップルとグーグルが共同開発したテクノロジー(API)をベースにしたアプリケーションを採用する予定だ。BBCが報じた。既存アプリは、5月半ばから全英に展開する予定で5月上旬にワイト島住民を対象にテスト運用されていたが、アイフォーン版で不具合が見つかっていた。
接触者追跡アプリの基本的な仕組みはどれも同じだ。2人の人(スマートフォン)が互いに長時間近づいたときにその記録を作成しておくことで、近距離で接触したことのある人が新型コロナウイルスと診断された場合に、該当者にアラートを送信する。英国の今回の方針転換は、ソフトウェアの完全な再設計ではなく切り替えであり、ユーザー・インターフェースは変更しないという。重要な違いは、アプリを非中央集権型にすることで、データを政府のサーバーにアップロードせず、ユーザーの携帯電話に保存するようになる点だ。
英国の中央集権的な手法には、プライバシーやセキュリティ、テクノロジー専門家から批判の声が上がっていた。常にフォアグラウンドで実行していないと機能しないということと、英国のデータ保護法に違反する可能性があるということがその理由だ。これまでのところ英国は、最近運用を開始した人手による接触者追跡プログラムのみに頼っている。しかし、ニューヨーク・タイムズ紙によると、それも問題に悩まされている。開始から3週間、接触者を1人も見つけられなかったケースがある一方で、誤ってイングランド地方の患者を北アイルランドの検査施設に送ろうとしたこともあった。
英国が運用を中止するアプリと、グーグルおよびアップルのモデルはどちらも、ブルートゥース(Bluetooth)信号に基づいて、誰がどれだけの時間、互いの近くにいるかを把握する。アイデアは単純だが、技術的には非常に複雑で難しい作業となる。壁や人の体、他の携帯電話からの干渉などによって信号が混乱する可能性があり、そうなればデータは役に立たなくなる。さらに、普及率の問題もある。接触者追跡アプリが有効に機能するために全員がアプリを使用する必要はないが、多くの人が使用するほど有用なものになる。
今回の決定には、数週間前から予兆があった。5月6日にはフィナンシャル・タイムズ紙が、英国の国民保健サービス(NHS)の局長がアップルおよびグーグルのシステムへの切り替えを調査する予定だと報じた。BBCによると、それ以来、英国の国民健康システムは両方のシステムを相互にテストしてきた。再設計されたアプリがイングランド地方で全員が利用できるようになる時期については、まだ何も発表されていない。スコットランド地方、ウェールズ地方、北アイルランドには独自の医療システムがあり、各地域が新たなアプリを採用するかどうかはまだ確認されていない。
(世界各国の取り組みについては「コビッド・トレーシング・トラッカー(Covid Tracing Tracker)」を参照)