ラボ育ちの「ミニ肺」は新型コロナの致死性の謎を解明するか?
新型コロナウイルスの人体への影響を知るために、研究室で人工的に作られたヒトの小型の肺にウイルスを感染させる研究が実施されている。重症患者が人工呼吸器を装着しても助からない原因が明らかになるか。 by Antonio Regalado2020.06.16
ボストンにある国立新興感染症研究所(NEIDL)のバイオセーフティーレベル4の研究施設の中で、研究者たちは、手袋を三重に装着し、蛇行するチューブを通じて宇宙服のような防護服に送り込まれる空気を吸っている。研究者たちの目の前にあるプラスチック製のフェイスシールドの下には、臓器によく似た細胞の集合体であるオルガノイドが成長してできた、ヒトの肺胞細胞がある。
そして今から、この肺胞細胞を新型コロナウイルスに感染させる。
次に起こることが、奇妙で致死性のある新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病理学的作用を明らかにする可能性がある。なぜなら重要なのは、ウイルスだけではなく、ウイルスに対する体の反応だからだ。人々は、ウイルスによって引き起こされる反応によって死亡している。オルガノイドは、最もダメージを受ける体の部位を正確に把握する上で役に立つかもしれないのだ。正確な細胞モデルは、ウイルスが体内にどのように取り込まれ、どこに最も害を及ぼすのかをすでに特定している。こうした研究成果は、新型コロナウイルス感染症の治療法の発見に貢献するだろう。
多くのウイルス学者は、コンピューターデータを使用したり、新型コロナウイルスの一部を組み込んだ代替ウイルスを用いて研究を実施している。時には、ウイルスが増殖しやすいサルの細胞にウイルスを感染させる場合もある。しかし、こうした代用品を用いるやり方では、実際にウイルスがヒトの特定の細胞型にどのように作用するかを明らかにすることはできない。「本物のウイルスを用いれば、本物の結果が出ます」と話すのは、ボストン大学が運営するNEIDLの微生物学者であるエルケ・ミュールバーガー准教授だ。「宿主応答を解明したいならば、代用品では全く役に立ちません」。
研究室で作成されたヒトの肺組織が利益をもたらす可能性のある領域の1つは、新型コロナウイルス感染症の治療薬の試験だ。研究者は、効果が見込める抗ウイルス薬の臨床試験を実施する前に、候補薬のウイルス阻害効果を研究室で検証する。しかし、長年シャーレでの培養に適応されてきた結果、研究室で作られる標準的な細胞は、普通の細胞とはかけ離れたものになっている。「研究室で作成された細胞は、肺や肝臓として機能する能力を失っており、インターフェロン(免疫細胞などが産生する抗ウイルス物質)に反応しません。本物の細胞とは大きく異なります」。ミュールバーガー准教授は話す。「ウイルスに感染する以外、何もできないのです」。
オルガノイド由来の細胞はそうではない。
小さな臓器
オルガノイドは、幹細胞から形成された複雑なミニ組織だ。幹細胞は増殖して自己組織化することができ、本物の臓器の基本的な細胞構成および機能を持つ小型の細胞集合体を形成する。オルガノイドには、繊細なひだを持つミニ胃腸管、脳波を放出する脳細胞の隗、本物のヒト胚にそっくりな構造などがある。
オルガノイドは、ジカ熱の流行時にウイルスの謎を解明するツールとして初めて使用され、研究室で作られたミニ脳に感染したウイルスは、成長中の若いニューロンを好むことが示された。この結果によって、蚊が媒介するジカ熱ウ …
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