新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療用に開発された抗体医薬品としては初となる臨床試験が始まった。米国各地の病院で32人の患者を対象にさまざまな投与量が試されている。この抗体医薬品「LY-CoV555」の安全性が確認された場合、今夏後半に入院患者以外の新型コロナウイルス感染症の患者を対象とした臨床試験が実施される予定だ。
LY-CoV555は、今年2月に米国で新型コロナウイルス感染症から回復した初期の患者から採取した血液を使用して、わずか3カ月で開発された。この血液には、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に結合して中和する抗体が含まれていた。目標は、ある1人の人において新型コロナウイルス感染症に対して効果的だった免疫反応を、あらゆる人に有効な医薬品に変えることだ。抗体医薬品はワクチンではないので、永久的な免疫をもたらすことはない。しかし、数週間または数か月の保護を提供する一時的な予防薬として使える可能性がある。始まったばかりの臨床試験が成功した場合、LY-CoV555は新型コロナウイルス感染症に有効であることが確認された最初の治療法の1つとなるだろう。すべてがうまくいけば、年末までに実用化されるかもしれない。
LY-CoV555は、製薬大手イーライリリーとバンクーバーを拠点とするバイオテクノロジー企業アブセラ(AbCellera)が共同開発した。独自の抗体医薬品の開発を試みている企業はこの他にもある。リジェネロン(Regeneron)の抗体医薬品と、グラクソ・スミスクラインとヴィア・バイオテクノロジー(VIR Biotechnology)が共同開発する抗体医薬品は、どちらも近く臨床試験が開始される予定だ。
LY-CoV555は特効薬にはならないだろう。新型コロナウイルスはまだよく理解されていないため、その治療はとても難しい。抗体カクテル(2種類以上の抗体を混合している医薬品)は病状を悪化させる可能性がある。たとえ目的通りの効果が出たとしても、初期は供給量が非常に限られるため、医師はどの患者に優先的に投与するか判断を迫られることになる。ありがたいことに、抗体医薬品であるLY-CoV555以外にも、別の疾患のために開発された治療薬の転用から新型コロナウイルス感染症向けに開発されたワクチンまで、数百の臨床試験が進められている。