オバマ大統領が米国に残す
テクノロジーに関する
5つの政治的遺産
オバマ政権の政策のよかったこと、うまくいかなかったことをMIT Technology Review編集部がまとめました。 by MIT Technology Review Editors2017.01.10
第44代米国大統領は、本日最後の演説をして、ホワイトハウスを去ろうとしている。
@potus(合衆国大統領のツイッター・アカウント)が自らの政治的遺産(レガシー)を残そうと努めているだろうが、MIT Technology Review編集部も、オバマ政権の業績を評価するため、オバマ政権8年間でテクノロジー関連の最も重要な構想をいくつかあげて振り返ってみることにする。オバマ大統領は、たとえばネットワーク中立性の支持や気候変動に関する世界的な行動に参加したことなど、いくつかの重要な点では成功した。しかし失敗したこともある。アメリカ国民なら、さんざんな出来のhealthcare.gov を覚えているだろう。さらに、新政権の樹立が迫り、成功例の中にさえ、今後引き継がれるか疑わしい政策もある。
以下では、テクノロジー関連の注目すべきオバマ政権の業績として、編集部が最も重要だと考える、米国政府のテクノロジー利用の高度化、ネットワーク中立性、テクノロジー関連の景気刺激策、医療記録の電子化、先進製造プロセスの5つをとり上げる。
政府のテクノロジー 活用策
healthcare.govの大失敗により、オバマ大統領は政府機関に対し、テクノロジー企業のように行動するように求めた。
2009年、バラク・オバマ大統領が就任直後に出した大統領令は、米国の医療制度改革とも、グアンタナモ湾収容キャンプの閉鎖等のよく知られた選挙公約とも関係なかった。米国の政府機関に、以前より透明性があり効率のよいテクノロジーを採用することを指示したのだ。
オバマ大統領は、当時話題になったほどコンピューターとインターネットを駆使した選挙活動を繰り広げた。現在、開かれた政府を目指した大統領令(Open Government Directive)は、政府機関の活動をデジタル・テクノロジーで変革するという、オバマ大統領の願いを実現するためだったことが明らかになっている。8年後のいま、不安定で不明瞭に思えるオバマ政権の遺産は、今後もっとも影響力を残す可能性が出てきた。
オバマ大統領はシリコンバレーのベテラン技術者を巧妙に口説いてワシントンに呼び集め、政府のデジタル化という目標実現を手伝わせた。「大統領がインターネットとIT産業に関心があるのは、選挙戦の最初の段階からわかっていました」とブライアン・ベエレンドルフ(WebサーバーソフトApacheの開発者としてオープンソース・ソフトウェア業界のリーダー的で、オバマ陣営の選挙戦を手伝い、ホワイトハウスで「開かれた政府を目指すプロジェクト」のアドバイザーを務めた)はいう。さらにIT技術者をうまく使いこなした。「デジタル化が成功したのは、オバマ大統領が既存の政治エリート層の人ではなく、若い外部の人間だったのと大いに関係があると思います」とベエレンドルフはいう。
政権一期目で、オバマ大統領はホワイトハウスで初めてツイッター・アカウントを開設し、ブログサイト(コメントをユーザーが書き込める)を立ち上げた。おかげで、米国民はオンラインで政府に請願できるようになった。さらに最高技術責任者(CTO)を雇ったのもホワイトハウス史上初めてだ。新サービスがいくつも立ち上がり、たとえばrecovery.govを使えば大統領による8000億ドルの経済対策予算の使われ方を誰でも追跡できる。
みっともない大失敗を最初にデジタルでやらかしたため、オバマ政権は政策実行のレベルアップに迫られたのだ。5000億ドル近い資金を投じて、オバマ大統領の医療費負担制度適正化法の目玉であるオンラインの医療保険比較・申込みサイト「healthcare.gov」(米国の健康保険制度は日本よりも貧弱で、個人事業主や中小企業の従業員は自分で民間の健康保険に加入しないと極めて高額な医療費を負担できなかったり、保証範囲が狭く高額な保健商品しか案内されなかったりする問題がある)を立ち上げた。しかし、2013年のサービス開始時、healthcare.govは、ほとんど使い物にならなかったのだ。
Webサイトを再構築するため、IT産業の専門家で構成された「緊急対策チーム」が招集され、グーグルのエンジニアだったマイキー・ディッカーソンを引き抜いて責任者にした。その後ディッカーソンは「合衆国電子サービス」という名称のソフトウェアの天才ばかりがメンバーの常設組織の責任者となり、政府機関の大型プロジェクトが悪循環に陥って制御不能にならないよう支援している。
もうひとつのグループ「18F」は、政府機関がテクノロジーの構築と調達をもっと効率化できるようサポートするために結成された。スタートアップ企業をモデルに、面倒な調達契約を避け、オープンソース・ソフトウェアとクラウドサービスの柔軟性を活用するよう促している。
18Fの共同創設者で、後に責任者を務めたアーロン・スノーによれば、政府がテクノロジーをスマートに使えるようにするオバマ大統領の努力は、次の大統領の下でも、その次にも継続され、さらに拡大することもありうるという。「18Fの中核となる価値観と考えは、完全に党派の垣根を超えています。政府がITに投資する際、効率よくするべきだという考えに異議を唱える人なんていません」
ネットワーク中立性
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