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コロナ禍で迫られる変革、
ロボット倉庫が小売業を救う
Pablo Blazquez Dominguez/Getty
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How lockdown is changing shopping for good

コロナ禍で迫られる変革、
ロボット倉庫が小売業を救う

新型コロナウイルスのパンデミックによって小売業が休業を余儀なくされる一方で、ネット販売に注文が殺到している。購買行動の変化に対応するため、最新ロボットを導入し、店舗のバックヤードや空き店舗を物流拠点に転換する企業も出てきた。 by Will Douglas Heaven2020.06.12

ニュージャージー州セコーカスにある倉庫の中では、家と同じぐらいの大きさの白い箱を囲むように何人かの人が立っている。数秒おきに、その白い箱の開口部から、プラスチックコンテナが滑らかに流れてくる。誰かがプラスチックコンテナに手を伸ばして女性用の下着や水着などの商品を取り出すと、コンテナは再び白い大きな箱の中に戻っていく。白い箱の中では、3万3000個ものプラスチックコンテナが床から天井までタワーのように積み重ねられ、列を成している。

白い箱の上では、73台のロボットがまるで蜂の巣を作っている巨大なミツバチように交差して動き回っている。ロボットは互いに協力してプラスチックコンテナを絶え間なく移動させ、特定の商品を保管しているコンテナに近づき、取り上げ、箱の外で待つ人に届ける。忙しい日には、ロボットは2万件のネット注文を忙しく処理する。80%はスマートフォンからの注文だ。

競合他社を打ち負かすために、倉庫の自動化に目を向ける小売業者は増えている。ロボットはコストを削減し、より迅速かつ正確に注文を処理できる。現在の一連のロックダウン(都市封鎖)が数カ月あるいは数年単位で続く可能性を考えると、小売業者が生き残るためには、こうした小規模な自動化が鍵になるかもしれない。これは遅れを取り戻そうとする中小企業だけでなく、週単位でビジネスモデルが変化している伝統的な大手企業にとっても当てはまる。消費者の購買方法は変化している。小売業の自動化の未来は、より小さく、より近く、そしてより柔軟にだ。

冒頭で紹介した自動フルフィルメントセンターは、アドーア・ミー(Adore Me)が昨年開設した最初の「実店舗」だ。アドーア・ミーは2011年に創業した中規模のネット小売業者で、女性向けファッションブランド大手のヴィクトリアズ・シークレット(Victoria’s Secret)のような確立されたブランドに対抗するために設立された。アドーア・ミーは従来、商品の保管や仕分け、配送管理を外部の物流会社に委託していた。だが、現在は、中小企業の自動化支援で急成長中のオートストア(AutoStore)が開発したスタッキング・テクノロジーのおかげで、自前の倉庫を運営している。

アドーア・ミーが使っているテクノロジー自体は、目新しいものではない。アマゾンや世界最大のネット専業食料品店であるオカド・テクノロジー(Ocado Technology)のような巨大企業が開発した自動フルフィルメントセンターでは、何千ものロボットがサッカーコート数面分の広大なスペースで数百万個のプラスチックコンテナを動かしている。だが、ここ数年、オンラインショッピング市場が成熟するにつれ、こうしたテクノロジーの分散化が進んでいる。ロボット倉庫システムがよりコンパクトかつモジュール化するにつれ、自社のビジネスニーズと利用可能なスペースに合わせて自前の倉庫を設置することを選択する小売業者が増えている。新世代のロボット倉庫システムは、郊外の広大な土地を占拠する代わりに、スーパーマーケットのバックヤードに設置できるのだ。

こうした変化、すなわち複数の場所に分散する小規模な自動フルフィルメントセンターへの移行は、小売業界が崩壊の危機に瀕しているためだ。米国商務省によると、4月の米国の小売売上高は16.4%減少し、記録を始めた1992年以来最悪の落ち込みとなった。その前の最悪の記録は8.3%の低下で、この3月に記録されたものだ。消費者が自宅に籠る中、多くの実店舗がシャッターを降ろし、小売業はみな苦しんでいる。

需要の急増

だが、悪いニュースばかりではない。一方でオンラインビジネスは爆発的に成長しており、消費者の需要を満たすことが困難になっている企業もある。米国では電子商取引が昨年同期比で21%以上増加している。最大のシフトが起きているのは食料品だ。3月19日、マッキンゼーは食料品業界の顧客企業に宛てた書簡で、一部では700%もの急増が見られると指摘した。毎週のようにスーパーで買い物をする代わりに、多くの消費者がネットで食品を購入している。つまり、オンライン注文を迅速かつ効率的に処理する方法が企業を勝利に導くのだ。

こうした動きに追いつこうと、一部の小売業者は、現在の空店舗の使い方を変えようと試行錯誤している。通りすがりの消費者に向けた商品を並べる代わりに、ビジネスをオンラインに完全に移行し、スペースを倉庫や配送拠点に転換しようとしている。

「まるで電子商取引が5年も先に進んだかのようです」。ライト・ハンド・ロボティクス(Right Hand Robotics)のヴィンス・マルティネッリCEO(最高経営責任者)は話す。同社は米国、欧州、日本にある数十カ所の小売倉庫数に、プラスチックコンテナから商品をピックアップするロボットアームを納入している。

急増する需要へ対応するには、アマゾンのように何万人もの派遣スタッフを雇う方法がある。だが、人件費は高い。マルティネッリCEOは、「システムが大きな衝撃を受けてしまったのですから、人を投入するだけでは長期的な解決にはなりません」は指摘する。

もう1つの方法は、問題を解決するテクノロジーの現場投入を加速することだ。

マルティネッリCEOによると、小売業は長年にわたって、自動化への投資強化の …

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