ドナルド・トランプ大統領が公の場で繰り返し宣伝しているおかげで、クロロキンとヒドロキシクロロキンが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療法として話題となっている。トランプ大統領は先週、新型コロナウイルス感染症の予防策としてヒドロキシクロロキンを服用していることを記者団に伝えた。しかし、5月22日に医学専門誌の「ランセット(Lancet)」に発表された新たな研究では、ヒドロキシクロロキンが新型コロナウイルス感染症の患者に対して実質的に何の役にも立たないばかりか、心臓に悪影響を与えたり死亡リスクを高めたりする可能性があることが示されている。
クロロキン、あるいはその代替薬でより毒性が低いヒドロキシクロロキンは、抗マラリア薬として広く使われている。クロロキンが85年ほど前に発見されてから広範な研究が実施され、現在では非常に安価に製造でき、その副作用についても分かっている。過去の複数の研究では、クロロキンによってウイルスが宿主細胞内で複製されるのを防げることが示されている。だが、クロロキンとヒドロキシクロロキンが、新型コロナウイルス感染症の治療でどれだけ有効であるかはまだよく分かっていない。
米国の研究者チームは、新型コロナウイルス感染症の入院患者のうち、次の4つの治療法のいずれかを受けた1万4888人分の記録に注目した。クロロキンのみ投与、クロロキンとマクロライド(抗生物質の一種)を併用して投与、ヒドロキシクロロキンのみ投与、ヒドロキシクロロキンとマクロライドを併用して投与、である。これらの患者の記録を、上記の4つの薬物療法のいずれも受けなかった患者8万1144人分の記録と比較した。
論文を執筆した研究者グループは、基礎疾患など交絡因子の調整をした後、単独使用あるいは他の投薬方法のいずれでも「ヒドロキシクロロキンまたはクロロキンの有効性を確認できなかった」と述べている。そればかりか、実際にこれら4つの薬物療法による治療は、死亡や心臓病のリスク上昇に関連があった。最大のリスク上昇は、ヒドロキシクロロキンとマクロライドを併用して治療されたグループで確認され、この治療を受けた患者の8%で不整脈が発生した。これに対し、この薬物療法を受けなかったグループにおける不整脈の発生率は0.3%であった。
ただし、今回の研究はこれまでの医療記録を観察したものに過ぎず、実際にヒドロキシクロロキンおよびクロロキンの安全性や有効性に関する事項を証明できる臨床研究ではない。そのため、ここから何らかの強力な結論を導き出すことはできない。結論を出すためには、クロロキンおよびヒドロキシクロロキンに焦点を当てたより大規模な研究が必要だ。
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