「月で水を掘る」はどこまで現実的か? 動き出したルール作り
月に存在する水を採掘して酸素と水素に分解し、ロケットの燃料として使えるようになれば、打ち上げコストを大幅に削減できる可能性がある。米国が2024年に予定しているアルテミス計画は、特に水氷に関して、月面採掘の新しい時代を導くだろう。 by Neel V. Patel2020.05.31
月は貴重な資源の宝庫である。金、プラチナ、そして多くの希土類金属は、抽出され、次世代エレクトロニクスで使用されるのを待っている。非放射性のヘリウム3によって、いつの日か、核融合炉が稼働するかもしれない。しかし、中でも1つ、科学者、ロケット技術者、宇宙機関関係者、業界起業家をはじめ、遠くへの宇宙飛行をより手頃な価格にすることに関心を持つあらゆる人が注目する資源がある。それは水だ。
水を水素と酸素に分解して液化すると、ロケット燃料が得られる。月の軌道や月面基地でロケットの燃料を補給できるようになれば、地球から打ち上げる時にすべての推進剤を搭載する必要がなくなるので、ロケットが大幅に軽量化され、安く打ち上げられるようになる。ロケットを地表から打ち上げる際には、地球の大気と引力のせいで、毎秒何トンもの燃料を使用する必要がある。宇宙に持続可能な燃料源を作れれば、大がかりな打ち上げのコストと危険を削減できるかもしれない。米航空宇宙局(NASA)のある推定によれば、月には6億トンの氷が存在する可能性が示唆されている。最も多い見積もりでは10億トンの可能性もある。
すなわち、これらの氷を効率よく採掘できれば、月は火星や他の場所への宇宙旅行のコストを節約する惑星間ガソリンスタンドになるということだ。
お金はあるのか
どの国も、計画を推進させたいと望んでいる。欧州宇宙機関(ESA)には、採掘作業を含む「月村」を建設するという緩やかなビジョンがある。中国の嫦娥5号の月探査とサンプル持ち帰りのミッションは、月の含水率について理解を深めるための先駆けの調査であると考えられている。昨年8月に失敗したインドの月面探査機は、月の南極で水氷の地図を作る予定であった。
もちろん米国にも、月の水についての計画がある。NASAは5月15日に、月面採掘のための法的枠組み案であるアルテミス協定を発表した。同協定は、2024年に宇宙飛行士を月面に再び降り立たせるNASAのアルテミス計画にちなんで名付けられた。アルテミス計画は、月面に恒久的な米国のプレゼンスを確立するための最も重要なステップであり、アルテミス協定では緊急援助サービスや技術基準の相互運用性などの問題が扱われている。しかし、さらに重要なことは、アルテミス協定により、他の国より前に米国が、最初に、月の採掘の条件を指示できるということである。さらに、国や企業間での干渉や紛争を防ぐため、それぞれの月面基地の間に中立的な「安全地帯」を設置することを提案している。
しかし、実際にどうやって月の水にアクセスするのかは明らかになっていない。障害物はたくさんある。低温度と放射線は、人間を危険にさらし、感度の高い機器を劣化させる可能性がある。大勢の乗組員が日々このような作業につくのは望ましいことではないが、かといって、自動化システムにどれだけ任せられるかも同様に不明である。月の土壌自体は粗くギザギザで、ま …
- 人気の記事ランキング
-
- Bringing the lofty ideas of pure math down to earth 崇高な理念を現実へ、 物理学者が学び直して感じた 「数学」を学ぶ意義
- Promotion Innovators Under 35 Japan × CROSS U 無料イベント「U35イノベーターと考える研究者のキャリア戦略」のご案内
- The 8 worst technology failures of 2024 MITTRが選ぶ、 2024年に「やらかした」 テクノロジー8選
- Google’s new Project Astra could be generative AI’s killer app 世界を驚かせたグーグルの「アストラ」、生成AIのキラーアプリとなるか
- AI’s search for more energy is growing more urgent 生成AIの隠れた代償、激増するデータセンターの環境負荷