KADOKAWA Technology Review
×
【3/14東京開催】若手研究者のキャリアを語り合う無料イベント 参加者募集中
Liquid Biospies are About to Get a Billion Dollar Boost

血液でがん検査のリキッド・バイオプシーが10億ドル増資計画

血液検査でがんを発見しようとしているグレイルが、実験的手法のための大規模な資金提供を呼び掛けた。 by Michael Reilly2017.01.09

10億ドルは大金だろう。しかし、がん検査のスタートアップ企業グレイル(Grail)ほどの大きな野心では、この額でも足りないくらいだ。

元グーグル社員でグレイルのジェフ・フーバーCEOが説明するように、グレイルの目標は「すべての主要ながんの種類を特定する検査手法」を確立することだ。グレイルは、DNAシーケンシング企業のイルミナや多くの著名テック企業からすでに1億ドルの資金を調達しているが、現金残高の桁に0がもうひとつ加われば、グレイルの高い目標が手の届く所にまで近づくと考えている。グレイルは先週木曜日の発表で、10億ドルの資金調達を計画していること、投資家から「関心の表明(IoI:Indications of Interest)」(投資する意思を表明すること)があったこと、迅速に行動することで、多額の資金注入を確保すること、を明らかにした。

グレイルの成功は、新興テクノロジーである「リキッド・バイオプシー」を劇的に拡大させる能力がグレイルにあるかどうかにかかっている。リキッド・バイオプシーは、人間の血液からDNAをシーケンシングし、がんの存在を明確に示す断片を探す際に有効な手法だ。リキッド・バイオプシーの有効性を最初に示した人物のひとりである香港出身の盧煜明(デニス・ロー)医師はかつて、母親の血流から胎児のDNAを検出するためにリキッド・バイオプシーを利用していた。リキッド・バイオプシーは、より安全なダウン症候群のスクリーニング検査につながり、現在広く利用されている。

盧医師はリキッド・バイオプシーを肺がんと鼻咽腔がんを発見する方法として試し、有望な結果を得た。しかし、リキッド・バイオプシーをすべてのがんに適用できるかのような期待を、盧医師は強く戒めている。

約1年前にイルミナから独立したグレイルは、リキッド・バイオプシーによってがんを早期に発見できるのか、また、他のスクリーニング検査以上に信頼できるのかを確認するという、自社の最初の課題に取組んでいる。

フーバーCEOも、乗り越えるべき山があることは自覚しているようだ。フーバーCEOが大腸がんで妻を亡くしてから、グレイルの使命は非常に個人的なものとなった。がんは進行に伴い急速に変異し、ある種類から別の種類に大きく変化するため、がんDNAの検知は困難になる得ることをフーバーCEOは認めている。フーバーCEOによると、がんのDNAのライブラリーを作成するために、グレイルは何万人もの被験者のDNAシーケンシングに頼ることになるという。ライブラリーを作成すれば、その後でコンピューターで解析できる。

しかし、がんとの戦争において形勢を一変させる崇高な話題の先には、よりひねくれた状況の見方がある。グレイルがイルミナのひとつの部署であった時、遺伝子配列装置の新市場を創設するには、グレイルは費用のかかる大博打だった。独立企業としては、今では資金の豊富な企業になり、グレイルは遺伝子解析ツールを販売するイルミナの最大顧客のひとつになろうとしている。グレイルの試みが成功するかどうかにかかわらず、ベンチャーキャピタルは資金を提供するだろう。

(関連記事:Forbes, “Blood Tests That Spot Cancer DNA Offer ‘Quantitative Peace of Mind’ for Survivors,” “10 Breakthrough Technologies: Liquid Biopsy, “Spotting Cancer in a Vial of Blood”)

人気の記事ランキング
  1. AI crawler wars threaten to make the web more closed for everyone 失われるWebの多様性——AIクローラー戦争が始まった
  2. Promotion Innovators Under 35 Japan × CROSS U 好評につき第2弾!研究者のキャリアを考える無料イベント【3/14】
  3. From COBOL to chaos: Elon Musk, DOGE, and the Evil Housekeeper Problem 米「DOGE暴走」、政府システムの脆弱性浮き彫りに
  4. What a major battery fire means for the future of energy storage 米大規模バッテリー火災、高まる安全性への懸念
  5. A new Microsoft chip could lead to more stable quantum computers マイクロソフト、初の「トポロジカル量子チップ」 安定性に強み
マイケル レイリー [Michael Reilly]米国版 ニュース・解説担当級上級編集者
マイケル・レイリーはニュースと解説担当の上級編集者です。ニュースに何かがあれば、おそらくそのニュースについて何か言いたいことがあります。また、MIT Technology Review(米国版)のメイン・ニュースレターであるザ・ダウンロードを作りました(ぜひ購読してください)。 MIT Technology Reviewに参加する以前は、ニューサイエンティスト誌のボストン支局長でした。科学やテクノロジーのあらゆる話題について書いてきましたので、得意分野を聞かれると困ります(元地質学者なので、火山の話は大好きです)。
▼Promotion
U35イノベーターと考える 研究者のキャリア戦略 vol.2
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る