始まりは、ベン ・ヴィゴダが両親を説得する目的で開発したとあるプロジェクトだった。当時、米国では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症例が報告され始めたばかりで、多くの米国人は日常生活を続けていた。ヴィゴダの両親も散歩を楽しみ、スーパーへ買い物に行き、友人と一緒に過ごしていた。
だが、機械学習のスタートアップ企業ギャマロン(Gamalon)の創業者であるヴィゴダCEO(最高経営責任者)は、状況がさらに悪化するのは時間の問題だと考えていた。中国語を話す同僚は12月下旬から新型コロナウイルスのアウトブレイクを追っていた。ヴィゴダCEOは1月中旬、全従業員に食料品を備蓄するよう指示を出し、2月末には全従業員に自宅勤務を命じた。2週間後、ヴィゴダCEOが暮らすマサチューセッツ州は、緊急事態宣言を出した。
ヴィゴダCEOはベビーブーム世代の両親に状況を説明するために、自分が最もよく知っているもの、つまりデータに目を向けた。平日の夜と週末に毎日作業を続け、社会的距離戦略(ソーシャル・ディスタンス)の重要性を示す簡単なモデルを作り上げた。「両親に私の考えを信じてもらうのが目的でした」。ヴィゴダCEOはこう振り返る。「両親は状況を真剣に捉えていなかったからです」。
ヴィゴダCEOの作ったモデルで、両親は自らの行動の影響をシミュレーションできた。もし自分が通常の社会活動を続けたら、友人の1人が病気になるまでどれくらいの時間がかかるのか? どれくらいの時間で自分のコミュニティに感染が広まるのか? 誰もが同じように行動した場合、米国で何人の人が亡くなるのか? このシミュレーションが「潮目を変えた」と言う。
実際、それがとても効果的だったことから、ヴィゴダCEOは開発をさらに進めることにした。パンデミック(世界的な流行)の持続期間に関する公式ガイダンスを見つけられなかったので、さらに精度の高い機械学習予測を開発するためにあらゆるデータを収集し始めた。この機械学習予測は家族、友人、同僚に限定して公開するつもりだった。しかし、予測を共有し始めると皆が口を揃えて「こういう予測に取り組んでいる人は、誰もいないみたいだよ」と伝えてきた。何人もの友人から「公開を目指してみたら?」との意見があったという。
ヴィゴダCEOは現在、予測モデルをオープンソースとして公開し、データ科学者や他の研究者による少人数のグループと改善に取り組んでいる。グループメンバーは全員、本業と家庭での役割の合間に作業をしている。いまだに彼は時折、努力が報われているどうか疑問に思うときがある。「私は疫学者ではありませんし、専門外です。本業で予測モデルを開発している人がいて、明日にでもモデルが発表されるでしょう」。しかし、そうした懸念にもかかわらず、コミュニティの励ましを受けてプロジェクトを推進している。
「戦時下の状況では、専門家でなくても誰もが協力するものです」とヴィゴダCEOは話す。
新型コロナウイルスのアウトブレイクと戦うための米国政府の組織的な対応が欠落している状態において、研究者や技術者、科学者が結集する動きが突然発生し、急速に拡大している。ヴィゴダCEOのプロジェクトはそうした動きの1つだ。米国で感染者数が爆発的に増加したため、データ科学者は慌てて世界的なデータの分析に取り掛かり、機械技術者は急いで簡易人工呼吸器を設計し、生物学者は研究室のリソースを転用して新しいテストを進めてワクチン開発を加速している。
一部の取り組みは、フェイスブックやスラック(Slack)上のオープンソース・コミュニティに合流し、他の人たちは独自にプロジェクトを推進している。愛する人を守り、広範囲に及ぶ被害を止めたいという焦燥感が突き動しているのだ。彼らはまた …
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