「前例なき未来」に対応、AIエコノミストが公平な税制度を導く
所得格差を是正し、より公平な税制度を提案する「AIエコノミスト」が開発された。パンデミックによって経済情勢が大きく変動する中、過去の経験に依存しない最適な税制度を考案できる可能性があるという。 by Will Douglas Heaven2020.05.12
所得不平等は、経済における包括的な問題の1つだ。それに対する、政治家が取り組むべきもっとも効果的な手段が課税だ。政府が人々の稼ぎに応じて金を集め、福祉政策を通じて直接的に、あるいは公共事業への予算割当という形で間接的に、集めた金を再分配するのが税の仕組みだ。増税すれば不平等は減少するが、税を重くしすぎれば人々は労働意欲を失ったり、税の支払いを回避する方法を熱心に模索したりしてしまい、全体の税収は減ることになる。
適切な課税バランスの実現は、簡単ではない。概して経済学者は、検証が難しい仮定を頼りにしている。人々の経済行動は複雑で、そのデータを集めるのは難しい。数十年に渡る経済研究は最適な税制設計に取り組んできたが、いまだに問題は解決していない。
米国のテック企業セールスフォース(Salesforce)の科学者らは、人工知能(AI)が役立つと考えている。セールスフォースの主任科学者であるリチャード・ソーチャー博士が主導する研究チームは、シミュレーション環境で最適な税制を見極める「AIエコノミスト(AI Economist)」と名づけたシステムを開発した。AIエコノミストは、人間の囲碁チャンピオンに勝利したディープマインド(DeepMind)の「アルファ碁(AlphaGo)」や、数時間で世界クラスの囲碁の指し手を学んだ「アルファゼロ(AlphaZero)」と同様に、強化学習を用いる。AIエコノミストは現段階ではまだ比較的単純だが(現実世界や人間の行動様式の複雑さをすべて計算に入れるのは不可能だ)、まったく新しい形で政策を評価する有望な第一歩だ。「税制の決定に政治的要素を減らし、よりデータ駆動型にできればすばらしいです」。研究チームのアレックス・トロット上級研究員は話す。
初期段階の1つの結果としてAIエコノミストは、生産性と所得の平等を最大化する点において、経済学者によって考案された最先端の累進課税制度よりも16%公平な政策を発見した。現在の米国の政策に対してはさらに大きな改善となる。「非常に興味深い考え方だと思います」。ニューラル・ネットワークを使って金融市場をモデル化した、マサチューセッツ州ブランダイス大学のブレイク・レバロン教授は話す。
AIエコノミストによる経済シミュレーションでは、エージェントとして4人のAI労働者がそれぞれ独自の強化学習モデルによって制御される。彼らは2次元の世界で相互にやり取りし、木や石を集める。集めた資源は他者と取り引きするか、自分で家を建てるために使い、それで収入を得る。労働者はそれぞれ異なる技能レベルを持っているため、専門性が生まれる。技能の低い労働者は自分で資源を集める方が良いと学習し、高い技能を持つ労働者は資源を購入して家を建てた方が良い結果が出せると学習する。シミュレーションの世界の年末ごとに、すべての労働者はAIが制御する政治家が考案した税率を課される。政治家側のAIは、すべての労働者の生産性と所得の両方を高め …
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