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新型コロナ治療に光、米国立研が「レムデシビル」の有効性を確認
Doug Mills (NYT) | Getty
Remdesivir seems to shorten covid hospital stays and may save lives

新型コロナ治療に光、米国立研が「レムデシビル」の有効性を確認

新型コロナウイルス感染症の治療薬として期待されていた「レムデシビル」の効果が臨床試験で示された。特効薬ではないものの、今後さらに多くの治療薬の開発が期待できる、希望の持てるニュースだ。 by Antonio Regalado2020.05.01

4月29日の早朝から、良いニュースが少しずつ流れ始めた。最初は漠然とした企業のプレスリリース、そして正午までにホワイトハウスから発表された。

医薬品「レムデシビル(Remdesivir)」は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因となる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に確かに有効なようだ。

このニュースは、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウシ所長からドナルド・トランプ米大統領に伝えられた。NIAIDが実施したプラセボ対照試験(実薬と偽薬とを被験者に無作為に投与して効果を測定する試験)で、抗ウイルス薬のレムデジビルを投与した新型コロナウイルス感染症の患者は、プラセボ(偽薬)を投与された患者に比べ、31%早く(15日に対し11日で)回復したとファウシ所長は説明した。

「目覚ましい特効薬ではないように見えますが、これは非常に重要な概念実証です。新型コロナウィルスを阻害する可能性が証明されました」。トランプ大統領とともに大統領執務室のソファーに腰掛けたファウシ所長はこう述べた。

レムデシビルが新型コロナウイルス感染症患者の治療に役立つとの今回の試験結果は、今回のパンデミック(世界的な流行)によって健康と経済を脅かされている悲惨な状況を脱するための一歩であり、今後より多くの治療薬が登場する希望を与えてくれるものだ。夏の終わり頃には、新型コロナウイルス感染症と戦う新しい抗体医薬を利用できる可能性があり、その数カ月後にはワクチンが登場する可能性がある。

米国食品医薬局(FDA)のスコット・ゴットリーブ元局長は、ニュース専門放送局のCNBCに対し、レムデシビルは「リスクを緩和し、元凶との大急ぎの競争であり、助かる手立てはないという人々の恐怖を和らげる可能性がある」ため、これまでより質の高い検査などの「強力なツールボックス」の一部になる可能性があると述べた。

「これらによって、我々はこの秋に向けてこれまでとは大きく異なる姿勢がとれると思います」とゴットリーブ元局長は話した。「水面下で新型コロナウイルスの感染が続く状況でも、日常生活に幾分近い状況に戻れるようになるでしょう」。

レムデシビルは、カリフォルニア州フォスター・シティに拠点を置くバイオテクノロジー企業のギリアド・サイエンシズ(Gilead Sciences)によって製造されている。同社はこれまでに、C型肝炎治療薬の大ヒットなどで成功を収めている。

臨床データはまだ発表されておらず、以前の中国からの報告では重症患者に対する効果は見られなかったとされている。だがもし、今回の新しい試験結果で妥当性が示されれば、レムデシビルはたちまち新型コロナウイルス感染症の主力治療薬になるだろう。

レムデシビルはFDAにより緊急承認される可能性が高く、ギリアド・サイエンシズは十分な数のレムデシビルの製造を急ピッチで進めると予想できる。

ファウシ所長はコメントの中で、今回の初期結果を、エイズ(後天性免疫不全症候群)の原因となるHIVウイルスの初の治療薬であるAZT(アジドチミジン、別名ジドブジン)を引き合いに出し、AZTの開発によってその後、より効果的なエイズ治療薬が登場したと述べた。

レムデシビルは新型コロナウイルス感染症からの回復にかかる期間の短縮のほかに、死亡率を低くする兆候も見られたが、それを裏付けるほどの決定的なデータはなかった。レムデシビルを投与された患者の死亡率が8%だったのに対し、投与されなかった患者の死亡率は11.6%だった。いずれにしても、新型コロナウイルス感染症による呼吸器疾患で入院した患者の死亡率の高さを思い出させる結果だ。

今回のNIAIDの臨床試験は、2月21日から始まった。患者の半数にレムデシビルを投与し、残りの半数の患者には偽薬を投与した。

臨床試験に参加した最初の患者は、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」で新型コロナウイルスに感染し、ネブラスカ大学で治療を受けた米国人だった。米国、ドイツ、スペイン、ギリシャ、英国などで、約1000人の患者がこの臨床試験に参加した。

ギリアド・サイエンシズがこれほど早くレムデシビルを新型コロナウイルス感染症に対する臨床試験に漕ぎ付けられた理由は、他の用途のためにすでに研究されていた薬を転用したからだ。研究室レベルでは重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスの抗ウイルス活性が示されており、エボラ出血熱の患者を対象にした臨床試験も実施されていた。レムデシビルは、RNAウイルスの自己複製分子を阻害する。

ギリアド・サイエンシズのダニエル・オデイCEO(最高経営責任者)は4月4日、患者14万人の治療に必要な量をすでに確保または間もなく提供可能だとし、臨床試験や患者に「無料で」提供していると述べた。

レムデシビルを公平に分配する方法や、その値段などを巡って大きな疑問が生じている。供給量が限られたレムデシビルをどの州が受け取るのか、誰に提供されるのかなどを巡る激しい議論は避けられないだろう。

レムデシビルは段階的に製造され(化学物質を加える複数の合成段階を経る)、全段階を終えるのに数カ月かかる。

ギリアド・サイエンシズは生産量を増やし、年末までに100万人分を生産できると述べた。だが、4月29日時点ですでにその3倍の感染者が確認されており、少なくとも22万4000人が新型コロナウイルス感染症で亡くなっている。

最適な投与量に加え、どのような状態の患者に最も効果があるのかを突き止めるために、さらなる研究も必要だ。

ある研究グループは、4月最終週に発表したホワイト・ペーパーの中で、米国政府は、より多くの企業にレムデシビルの製造を許可し、既存の化学製品生産ラインを大量のレムデシビルの生産をするために転用する措置を講ずるべきだと述べた。執筆したハーバード大学の化学者、スチュアート・シュライバー教授ら研究グループは、症状が現れ始めた後すぐに、より多量のレムデシビルを投与すべきだと述べている。「供給量が限られているため、現在の投与量が選択されていると推測します。もっとも有効な試験投与量を決定できるように、この問題に関する理論的な事実を確認するよう政府に要請します」。

ギリアド・サイエンシズは、レムデシビルの5日間の投与と10日間の投与が同様の効果を示すという別の研究結果を報告した。短期間での投与は供給量の限られたレムデシビルを、より広く分配するための1つの手段になるだろう。

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MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。
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