新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって、世界中の多くの国で医療資源がひっ迫している。人工知能(AI)で患者のスクリーニングがスピードアップし、臨床検査スタッフへの負担が軽くなると期待している人は多いかもしれない。だが、グーグル・ヘルス(Google Health)が実施した深層学習ツールが実際の臨床現場に与える影響を調査した初の研究によると、たとえ最も正確なAIでも、実際の臨床現場の環境に合わせて調整されなければ状況を悪化させる可能性がある。
米国における食品医薬品局(FDA)の承認や欧州のCEマーク(安全基準適合)など、AIを臨床現場に配備するための既存の規則は主に正確度に焦点を当てており、AIが患者の転帰を改善しなければならないという明確な要件はない。そうした試験はまだ実施されていないからだ。しかし、グーグル・ヘルス UX(顧客体験)部門のエマ・ビーディ研究員は状況を変える必要があるという。「AIを広く普及させる前に、AIツールが現場の人々、特に医療現場で働く人々に、どのように機能するのかを理解しなければなりません」。
グーグルは、実際の医療現場でAIを試す機会をタイで得た。タイ保健省は糖尿病患者の60%を、糖尿病網膜症の検査対象とする年間目標を設定している。糖尿病網膜症は、早期発見しなければ失明につながる恐れのある眼病だ。だが、タイでは約450万人の患者に対し、網膜専門医はわずか200人しかおらず(人口比で米国のおよそ半分)、目標の達成に苦戦している。グーグルのシステムはFDAの認可はまだ下りていないものの、CEマークを取得しており、タイでも利用可能だ。医療現場でのAIの有用性を確かめるため、ビーディ研究員らは糖尿病患者から糖尿病網膜症の兆候を見つけられるよう訓練した深層学習システムを、タイ国内の11の診療所に設置した。
それまでタイが使用していたシステムは、看護師が患者の眼部写真を撮影し、それを各地の専門医に送信して診てもらうもので、診断までに最大10週間必要だった。グーグル・ヘルスが開発したAIは、眼部をスキャンして糖尿病網膜症の兆候を90%以上の正確度で識別できる。グーグル・ヘルスのチームによれば「人間の専門医レベル」であり、おおむね10分以内に結果が出る。システムは画像を分 …