イスラエル、新型コロナのハイリスク者をAIで特定
新型コロナウイルス感染症への感染で重篤化するリスクが高い健康保険加入者を特定する人工知能がイスラエルで使われている。ただし、27年分の膨大な医療記録を使ったAIを他国で展開するのは難しいかもしれない。 by Will Douglas Heaven2020.05.04
イスラエルで医療サービスを提供する大手健康維持機構のマッカビ医療サービス(Maccabi Healthcare Services)は、加入者240万人の中から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の合併症のハイリスク者を特定するために、人工知能(AI)を活用している。
マッカビ医療サービスがメディカル・アーリーサイン(Medial EarlySign)と共同開発したこのシステムは、すでに加入者の2%をハイリスク者として抽出しており、その数はおよそ4万人に上るという。ハイリスク者として特定されると、新型コロナウイルスへの感染が疑われた際に、検査を優先的に受けられるようになる。
マッカビ医療サービスのシステムで利用されているAIは、27年分の数百万件もの記録を使ってインフルエンザのハイリスク患者を特定するために訓練された既存のシステムを応用したものだ。予測には、年齢、BMI、心臓病や糖尿病といった健康状態、過去の入院歴など、個人のさまざまな医療データが利用される。膨大な記録を徹底的に調べ、他の方法で見逃されている可能性があるハイリスク者を発見できるのが特徴だ。
マッカビ医療サービスは、ハイリスク者として分類された加入者が罹患した場合に、どの程度の治療レベルが必要になるかもAIを使って見極めている。つまり、患者に自宅療養させるか、隔離用ホテルに行ってもらうか、入院させるかをAIで決めるのだ。マッカビ医療サービスによれば、現在、AIを使ったハイリスク患者の迅速な追跡に関心を持つ、米国の大手医療グループとも話を進めているという。
AI企業アピキシオ(Apixio)のCEO(最高経営責任者)であるダーレン・シュルテ医学博士は、「AIを使うことで弱い人々を特定できれば、人命を救うことができる」と話す。アピキシオは、医師のメモといった構造化されていない医療データを分析するソフトウェアを開発している企業だ。シュルテCEOはロックダウン措置が緩和された後でも、ハイリスク者を隔離するのに、マッカビ医療サービスのツールが利用できるのではないかと考えている。たとえば、ウイルス保有者の可能性がある未診断の家族とハイリスク者を接触させないように、特別な宿泊施設に移ってもらう、といった使い方が考えられるという。
しかし、マッカビ医療サービスが開発したツールを他国に展開するのは、それほど容易ではないかもしれない。米国では、医療記録は多くの異なる医療システムに保管されている。シュルテCEOは、「当社のハイリスク者識別アルゴリズムの開発能力も、データセットが欠如していれば制限されてしまいます」と述べる。「ニューヨーク市ですら、市にあるすべての大病院から集めた患者情報をまとめ、単一のデータセットとして作り上げるのは容易ではないと思います」。
シュルテCEOは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが、この状況を変えるかもしれないと考える。シュルテCEOによると、米国政府の一部門で、保健医療ITを調整する「国家医療 IT 調整官室(Office of the National Coordinator for Health Information Technology:ONC)」が発表した最近の規則では、異なる病院間の安全なデータ転送がサポートされているという。「それ以外に必要なのは、患者データの提供者だけです。そうすれば、データアクセスが可能になります」。
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- ウィル・ダグラス・ヘブン [Will Douglas Heaven]米国版 AI担当上級編集者
- AI担当上級編集者として、新研究や新トレンド、その背後にいる人々を取材しています。前職では、テクノロジーと政治に関するBBCのWebサイト「フューチャー・ナウ(Future Now)」の創刊編集長、ニュー・サイエンティスト(New Scientist)誌のテクノロジー統括編集長を務めていました。インペリアル・カレッジ・ロンドンでコンピュータサイエンスの博士号を取得しており、ロボット制御についての知識があります。