ニューヨーク州下院議員のロン・キムは、通貨を再設計すべきだと以前から確信していた。新型コロナウイルスのエピデミック(局地的な流行)がニューヨーク州を襲った現在、キム議員はイチかバチかの賭けに出た。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が米国内で蔓延し始める以前から、キム議員は、州による公共デジタル決済システムの構築を推進していた(キム議員はニューヨーク市クイーンズ区の一部を選挙区とする第40区の代表)。キム議員と支持者らは、この構想について、一種の「公共版ベンモ(public Venmo)」だと説明する。人気のピアツーピア(P2P)決済サービス「ベンモ」をもじったのだ。
キム議員の主張は、ニューヨーク州の住民が公共アクセス可能な無料の決済ネットワークを必要としているということだ。なぜ、公共である必要があるのか? クレジットカード会社などの営利目的のデジタル決済プラットフォームは高い取引手数料を請求されることが多く、しかも銀行口座を持たない人を締め出す傾向にあるからだ。さらに営利企業が取引データを収集することで、深刻なプライバシー問題も起きる。
キム議員は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な流行)によって、公共アクセス可能なデジタル決済プラットフォームを必要とする理由がさらにはっきりしたという。給付金を必要とする人に対して、政府は従来よりも優れた方法で送金する必要がある。「給付金をデジタル・ウォレットで滞りなく受け取れる方法の導入が、まさに緊急に必要なのです」。
ニューヨーク州に「公共版ベンモ」を導入するアイデアを最初に思いついたのが、コーネル大学のロバート・ホケット教授(法学)とキム議員だ。この概念を説明する学術論文の中で、コンピューター科学のバックグランドも持つホケット教授は、過去10年間に出現した新しい金融テクノロジーによって、P2P決済プラットフォームの構築は「単純明快な提案」になったと主張する。
昨年の秋、キム議員、ホケット教授、ニューヨーク州上院議員のジュリア・サラザールは、正式名に「包括的価値台帳(Inclusive Value Ledger)」と名づけたプラットフォームの法制化に取り組むと発表した(サラザール議員はニューヨーク市ブルックリン区のほとんどを選挙区 …