NASA、パンデミックのさなか9年ぶりの有人宇宙船打ち上げへ
NASAは、宇宙飛行士2人を乗せたスペースXのクルー・ドラゴンを、国際宇宙ステーション(ISS)へ向けて5月27日に打ち上げる計画を発表した。新型コロナウイルス感染症のパンデミックのさなかの打ち上げミッションに対し、関係者の健康への影響を懸念する声がある。 by Neel V. Patel2020.04.24
米国航空宇宙局(NASA)のジム・ブライデンスタイン長官が、スペースX(SpaceX)の「ファルコン(Falcon)9」ロケットを5月27日に打ち上げ、2人の宇宙飛行士を国際宇宙ステーション(ISS)に運ぶ計画を発表した。打ち上げが実行されたら、2011年7月8日のスペースシャトルの打ち上げ以来、久しぶりに米国のロケットが人を軌道上に送り込むことになる。
ミッションはフロリダのケネディ宇宙センターから打ち上げられる予定だが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な流行)が大きくのしかかっている。フロリダ州は現在、4月30日までを期限とする自宅待機令下にあるが、必要不可欠な行動は禁止されていない。連邦政府には必要不可欠な行動を宣言する幅広い裁量が与えられているが、このミッションは必要不可欠ではないとの批判もある。
NASAの元副長官であるロリ・ガーバーは、4月13日のアトランティック(The Atlantic)誌の記事で、「多くの人々の命を危険にさらしてでも、私たちが20年間に渡って訪れていたのと同じ場所に2人の宇宙飛行士を送り込むことを優先すべきかどうか、私にはよく分かりません」と語っている。「(打ち上げ)日を守るということは、つまり関係者が今でも働いているということです。今現在、彼らを危険にさらしているのです」。
NASAでは対策を講じ、打ち上げ計画に伴う関係者の健康上の影響を緩和する策をとっている。フロリダの「スペースコースト(宇宙海岸)」沿いにある通常の見学場所からの一般人の見学は禁止され、見学場所に入れる報道陣の数も制限される。しかし、ブライデンスタイン長官がCNBCのインタビューで語ったところによると、打ち上げにはスペースXの従業員数百人に加え、約350人のNASA職員が関わるとのことだ。同長官はCNBCに対し、NASAの職員は通常よりも社会的距離を取るよう考慮されたシフト制で勤務し、必要な場合には個人用防護服を着用することになるだろうと語った。
スペースXの打ち上げ目的は、同社がNASAとの契約に基づいて開発した「クルー・ドラゴン(Crew Dragon)」カプセルの試験をすることだ。スペースXの打ち上げに先立つ4月9日には、米国の宇宙飛行士1人、ロシアの宇宙飛行士2人、そして補給物資を乗せたロシアのソユーズロケットが、ISSに向けてカザフスタンから打ち上げられた。
2019年3月には、無人飛行の試験中だった宇宙船「クルー・ドラゴン」がISSに自律ドッキングを果たした。2機目のクルー・ドラゴンは、昨年4月のエンジンテスト中に発生した火災で焼失し、この事故が4月17日に発表された打ち上げの遅れの原因となっている。
NASAはまた、スペースXのライバルであるボーイングが取り組む「スターライナー(Starliner)」計画にも資金を提供して競争を促しているが、こちらはさらなる問題を抱えている。2019年12月には初めての無人の試験飛行をしたが、ソフトウェアの不具合でISSとランデブーできず、失敗に終わった。そして、この不具合を調査した際に、さらに深刻な不具合が見つかってしまった。まだスケジュールは決まっていないが、ボーイングは2度目の無人試験飛行を計画しており、2021年までに有人のスターライナーをISSに送りたいとしている。
当初の予定では、5月27日の打ち上げミッションはISSに1週間から2週間の滞在する短期ミッションだったが、NASAはこのミッションを長期滞在に変更する可能性を残している。
NASAによると、ミッションに使用されるクルー・ドラゴンは、約110日間軌道上に留まれるとのことだ。ミッションがいつ終了したとしても、クルー・ドラゴンは地球へと帰還する2人の宇宙飛行士を乗せて宇宙ステーションを後にすることになる。
4月17日には、NASAのジェシカ・メイヤー飛行士とアンドリュー・モーガン飛行士が、ロシアのオレグ・スクリポチカ飛行士とともにカザフスタンに帰還した。メイヤー飛行士がナショナル・パブリック・ラジオ(NPR、米国の非営利・公共ラジオネットワーク)のインタビューで語ったように、無重力状態が長期間続くと人の免疫システムは弱まるため、ヒューストンでは通常よりも厳格に隔離されることになる。ヒューストンまではNASAの航空機で移送される予定だ。
スターライナーとクルー・ドラゴンが参加する商業乗員輸送開発において、NASAのスケジュールは数年遅れている。オリオン(Orion)と呼ばれる別の計画でも、さらにスケジュールが遅れている。オリオンは、ロッキード・マーチンがより伝統的な契約取り決めに基づいて製造する宇宙船だ。こうした遅延により、NASAが軌道上に人を送り込むには、10年近くにわたりロシアに依存せざるを得なくなっていた。オリオンは元々、乗組員を国際宇宙ステーションに輸送することを目的としていたが、今ではその代わりに、人類を月に運ぶという新たなミッションが与えられている。
トランプ政権は、(2期目があればそれが終了する)2024年までに人類を再び月に送ることを目指している。業界アナリストの間では、このスケジュールは不可能であるとの見方が大半だ。しかし、スケジュールを遵守させるのであれば、パンデミックのさなかでも打ち上げスケジュールを積極的に進めるよう、ブライデンスタイン長官は大きなプレッシャーを受けることになる。
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- ニール・V・パテル [Neel V. Patel]米国版 宇宙担当記者
- MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。地球外で起こっているすべてのことを扱うニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」の執筆も担当している。MITテクノロジーレビュー入社前は、フリーランスの科学技術ジャーナリストとして、ポピュラー・サイエンス(Popular Science)、デイリー・ビースト(The Daily Beast)、スレート(Slate)、ワイアード(Wired)、ヴァージ(the Verge)などに寄稿。独立前は、インバース(Inverse)の准編集者として、宇宙報道の強化をリードした。