トランプ宣言に異議あり、
いまこそWHOには
資金と権限が必要だ
今回のパンデミックにおけるWHOの対応は完璧ではないかもしれないが、国際協調において果たしてきた重要な役割にも目を向けるべきだ。 by Charles Kenny2020.04.22
ドナルド・トランプ大統領は、米国から世界保健機関(WHO)への拠出金の支払い停止を表明した。実際のところトランプ大統領に、支払い停止を実行する法的権限があるかどうかについては不明だ。それはそれとして、ビル・ゲイツや世界各国の首脳が指摘するように、これは馬鹿げた決定だ。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な流行)は、WHOのこの数カ月における取り組みがなければ、もっと悪化していただろう。
WHOは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症例数が全世界でわずか282例だった1月21日から、毎日「状況報告」を発表してきた。WHOはその時点で、すでに検査診断、臨床的対応、感染予防と管理、リスク・コミュニケーションに関する暫定的な指針を作成していた。2月中旬には、特に需要の多い開発途上国に対し、個人用防護具を提供していた。2月14日には新型コロナウイルス感染症の臨床検査キットの提供を56カ国を対象に開始し、月末までにその対象を93カ国に拡大した。数百におよぶ臨床試験の記録を取りまとめ、臨床試験のための「マスター・プロトコール」を作成し、世界中の患者グループをプールすることで試験の規模拡大を図ってきた。
その結果、「ソリダリティ(Solidarity:団結)」と呼ばれるグローバルな大規模臨床試験が3月20日から始まった。ソリダリティでは新型コロナウイルスを死滅、あるいは増殖速度を遅らせる可能性のある4つの医薬品の有効性を評価するため、数十カ国の医療機関から収集したデータを利用する。こうしたグローバルなアプローチは、パンデミックにおいては特に重要だ。臨床試験は、病気が発生した時点で、発生している場所で実施しなければならない。もし効果的な公衆衛生の取り組みによって、ある地域で十分なデータを得る前にアウトブレイクを抑え込むことに成功した場合、どの医薬品に効果があるのか見極めるのは非常に難しくなるからだ。各地のホットスポットから、感染が急増し始めた時点でデータを集めて取りまとめるようにしておくことが重要だ。
とはいえ、WHOが常に正しいタイミングで正しく活動してきたかといえば、そうではない。
WHOはアウトブレイクが19カ国に拡大し、既知の感染者数が8000人を超える1月30日まで、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しなかった。パンデミックを宣言したのは3月11日であり、専門家はあまりに遅すぎる宣言だと批判した。
我々には2つの選択肢がある。1つはトランプ大統領と同じく、WHOのような多国間による国際組織は深刻な危機に対応するには力不足と結論づけ、政治的に独立している国家のみが強大な力を持つという国際秩序に逆戻りすることだ。もう1つは、グローバル化した世界においては、強固な国際機関が必要だと受け入れることだ。
実際のところ、選択の余地はない。我々はグローバルに対応する必要がある。WHOは権限を強化する必要があり、権限を縮小するべきではない。
WHOにはアウトブレイクを独自に調査し、アウトブレイクが発生している地域に対して抑え込むための迅速かつ手厚い支援をするだけの体制が必要だ。WHOは検査、各種医療資材、治療、ワクチンの開発および国際的 …
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