新型コロナウイルスとは何か? 押さえておきたい基礎知識
新型コロナウイルス感染症のパンデミックに冷静に対応するためにも、現時点で分かっていることについて改めておさらいしておこう。 by Neel V. Patel2020.04.20
新型コロナウイルスとは何か?
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のビリオン(ウイルス粒子)の直径は約80ナノメートル(ナノは10−9)。重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)の原因となるウイルスと同じコロナウイルス科に属する病原体だ。各ビリオンは球体で、ウイルスの遺伝情報であるRNAをタンパク質が取り囲んで保護している。球体表面は脂質の被膜に包まれており(そのため、石鹸がウイルス破壊に有効となる)、スパイク状のタンパク質が多数突出している。
新型コロナウイルスの起源は?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、SARS、MERS、AIDS、およびエボラ出血熱のように、動物から人へ伝播可能な感染症(人獣共通感染症)だ。おそらく2019年後半に中国の武漢で動物から人への伝播が起こり、宿主はコウモリの可能性が高いと科学者は考えている。実際、新型コロナウイルスはコウモリから見つかったウイルスにもっとも近く、遺伝子構造の96%が一致する。コウモリからセンザンコウ(絶滅危惧種で、珍味として食されることもある)を経由して、人へ伝播した可能性もある。
ヒト細胞にどのように侵入するのか?
新型コロナウイルスのスパイクタンパク質は、ヒト細胞表面のタンパク質「ACE2」に付着する。ACE2は通常、血圧調整の役割を果たしている。しかし、新型コロナウイルスが結合すると化学変化を起こしてヒト細胞の細胞膜と新型コロナウイルスの外膜の融合を促し、新型コロナウイルスのRNAが細胞に侵入できるようになる。
その後、新型コロナウイルスは宿主細胞のタンパク質合成システムを乗っ取り、宿主細胞のRNAを新型コロナウイルスの新しいコピーに変換する。わずか数時間で、1個の細胞に新しいビリオンを数万個形成させることができ、その新しいビリオンが健康な細胞に感染する。
新型コロナウイルスのRNAの一部は、宿主細胞に留まるタンパク質も遺伝情報として指定している。少なくとも3つのコードが分かっている。1つ目は、宿主細胞が攻撃を受けているという信号を免疫系に送信しないようにする。2つ目は、宿主細胞に新しく作成されたビリオンの放出を促す。そして3つ目は、新型コロナウイルスが宿主細胞の先天性免疫に抵抗するのを助ける。
免疫システムはどのようにして新型コロナウイルスを撃退するのか?
多くのウイルス感染と同様、体温を上昇させて新型コロナウイルスの死滅を試みる。さらに、白血球がウイルスを追跡して感染した細胞を取り込んで破壊したり、ビリオンが宿主細胞に感染するのを防ぐ抗体を産生したり、感染した細胞にとって有毒な化学物質を作ったりする。
しかし、人によって免疫システムの反応は異なる。インフルエンザや風邪と同じように、新型コロナウイルス感染症でも声帯より上の上気道のみの感染では簡単に克服できる。上気道より下へ感染が進むと、気管支炎や肺炎などの合併症を引き起こす可能性がある。呼吸器疾患の病歴のない人は軽度の症状だけで済むことが多いが、若くて健康な人でも重度感染症を起こした例や、症状が重くなると予想された人でも軽症で済んだ例の報告が数多くある。
下気道まで新型コロナウイルスの感染が広がる(類似ウイルスのSARSで起こることが多い)と、両方の肺が大きな損傷を受けて呼吸困難に陥る。過度の飲酒、食事抜き、睡眠不足など免疫システムを低下させる行為はすべて感染症を深刻化する可能性がある。
症状はどのように現れるのか?
感染症はウイルスと免疫システムの間の競争だ。競争の結果はどこからスタートしたかによって異なる。最初に感染したウイルス量が少ないほど、ウイルスが増殖して制御不能になる前に免疫システムが感染症を克服できる可能性が高くなる。ただし、症状の重さと体内のビリオンの数の関係はまだ分かっていない。
感染で肺がひどく損傷を受けると、肺は体内に酸素を届けることができなくなり、人工呼吸器が必要となる。米国疾病予防管理センター(CDC)は、この状況が新型コロナウイルス感染症患者全体の3%から17%の割合で発生すると推定している。免疫力の低下が引き起こす二次的な感染も患者の主な死因の1つだ。
身体反応がもっとも有害になることもある。発熱はウイルスを死滅させることが目的だが、熱が長引くと体内のタンパク質も分解される。さらに、免疫システムはウイルスの増殖阻止を目的とした小さなタンパク質「サイトカイン」を分泌する。サイトカインの過剰産生はサイトカインストームと呼ばれ、致命的な過剰炎症反応を引き起こすことがある。
治療とワクチンはどのように機能するのか?
ワクチンは基本的に、不活化ウイルス、弱毒化ウイルス、ウイルスの一部、ウイルスタンパク質を利用したものなど約6種類ある。いずれも、ウイルス成分を体内に取り込み、特定の血液細胞に抗体の産生を促すことを目的としている。ワクチンを接種していればウイルスに感染したとしても、免疫システムはそのウイルスを阻止する準備が整っている。
これまで、新しい人獣共通感染症のワクチンを迅速に製造することは困難だった。多くの試行錯誤が必要となるからだ。ワクチンの臨床試験を最近開始したモデルナ(Moderna)は、ウイルスから遺伝物質をコピーして人工ナノ粒子に加えるという新しいアプローチを採用している。このアプローチではウイルス自体は必要なく、遺伝子配列だけに基づいてワクチンを作成することが可能になる。これはさほど新しいアイデアではないが、このようにして作られたRNAワクチンが免疫システムから十分な反応を引き起こせるほど強力かどうかは不明だ。ワクチンに毒性がないことをまず証明した後、臨床試験で効果を立証することになるだろう。
ほかの抗ウイルス治療では、ウイルスの拡散を遅らせるためにさまざまな方策を使用するが、どの治療方法がどれほど効果的であるかはまだ明らかではない。一般的な抗マラリア薬のクロロキンとヒドロキシクロロキンは、新型コロナウイルスがRNAを宿主細胞へ放出するのを阻害する可能性がある。日本で開発されたファビピラビル(商品名はアビガン)は、ウイルスによるゲノム複製を防ぐことができるかもしれない。HIV治療で一般的に使われ、MERSに対して効果があったロピナビルとリトナビルの併用療法は、細胞がウイルスタンパク質を生成するのを防ぐ。高血圧治療用の降圧薬を使って、新型コロナウイルスが結合するACE2タンパク質を標的にできると考える人もいる。
別の有望なアプローチとして、新型コロナウイルスに感染して回復した患者から血清を採取し、その血清(と含まれる抗体)を薬として使用する方法がある。これは、医療従事者向けの一時的な免疫や、感染患者の体内でのウイルス増殖防止に役立つ可能性がある。このアプローチは過去に他のウイルス性疾患に対して効果があったが、新型コロナウイルスに対してどれほど効果があるかはまだわかっていない。
執筆協力:アントニオ・レガラード
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- ニール・V・パテル [Neel V. Patel]米国版 宇宙担当記者
- MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。地球外で起こっているすべてのことを扱うニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」の執筆も担当している。MITテクノロジーレビュー入社前は、フリーランスの科学技術ジャーナリストとして、ポピュラー・サイエンス(Popular Science)、デイリー・ビースト(The Daily Beast)、スレート(Slate)、ワイアード(Wired)、ヴァージ(the Verge)などに寄稿。独立前は、インバース(Inverse)の准編集者として、宇宙報道の強化をリードした。