2022年まで社会的距離が必要? ハーバード大予測が意味すること
新型コロナウイルスの終息をめぐって、ハーバード大学が発表した論文が注目されている。だが、「2022年夏」という数字の一人歩きには注意すべきだ。 by Konstantin Kakaes2020.04.17
米国での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延をモデル化したハーバード大学公衆衛生大学院の研究者による新しい論文によると、「2022年まで、長期または断続的な社会的距離(Social distancing)政策が必要になるかもしれない」という。この論文について多くの ニュース報道で強調されているのは、その驚くべき日付である。多くの人々は、それよりずっと早く何らかの方法で新型コロナウイルス感染症が終息することを願っている。しかし、今回のパンデミック(世界的な流行)の渦中に発表されたモデリングの結果から学ぶことがあるとすれば、見出しで注目を引く数字に固執すべきではないということだ。代わりに、「かもしれない」に焦点をあてる必要がある。
4月14日にサイエンス誌に掲載された論文は、新しくかつ重要な論点を提示している。同論文は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に密接に関連する別の2つのコロナウイルスであるOC43とHKU1のデータを使用して、新型コロナウイルス感染症の拡大を予測する初の主要な研究である。OC43とHKU1は、いわゆる一般的な風邪の多くの原因となっている。
この論文では、季節的影響が現在のパンデミックの原因となっているウイルスであるSARS-CoV-2の広がりに、どのように影響するかを検討している。論文で示されている1つ目の重要な変数は次のようなものだ。研究者が想定しているように、SARS-CoV-2がOC43およびHKU1と似た振舞いを示す場合には、蔓延を止めるまでは不十分なものの、夏を迎えればその拡散速度は大幅に遅くなる。また、夏の間にわたって社会的距離政策が延長されることで、2020年から21年の冬のアウトブレイクがさらに悪化するリスクもある。SARS-CoV-2に感染していない人がまだたくさんいるからだ。
モデルにおける2番目に重要な変数は、免疫の持続時間である。疫学の第一人者で同研究の筆頭著者の1人であるマーク・リプシッチ教授は記者会見で次のように述べている。「合理的な推測では、短い場合で1年間またはそれに近い期間、長い場合では数年間、免疫はかなり効果を発揮するでしょう。しかし、それは現時点ではまったく推測にすぎません」。
リプシッチ教授らのモデルによれば、免疫が約1年間続くと仮定すると、社会的距離政策やその他の介入がない場合、新型コロナウイルス感染症のアウトブレイクは毎年発生する。免疫が持続する期間が長くなると、発生頻度はより低くなる。他のコロナウイルスに対して免疫を持っている人間はSARS-CoV-2に対してもある程度の免疫を獲得していると仮定した場合には、こうしたアウトブレイクは深刻度合いが薄まる。
今回のモデルは、独自の記述によって、多くの単純化された仮定に基づいている。たとえば、積極的な接触履歴の追跡によってウイルスの拡散が抑制される可能性を考慮していない。そして、すべての人々を同じようにモデル化している。すなわち、誰もが一様に影響を受け、ウイルスに暴露され、感染し、回復するとされる。こうした枠組みでは、たとえば、異なる年齢の人々がウイルスにどのように反応する傾向があるかは説明できない。
また、研究者らは、社会的距離政策がない場合の「R0(1人の感染者が感染させる人数の平均値)」を、2から2.5の間だと仮定している。一方で、いくつかの研究はR0がそれよりも高いことを示唆しているが、これは実は良いニュースと言えるだろう。なぜなら、ウイルスはすでに、一般に考えられているよりはるかに広く広がっており、かつ致命的でないことを意味するからだ。リプシッチ教授は次のように述べる。「人々の中に私たちが考えているより多くの免疫集団があるのならば、それぞれは軽度の症例を通じて、より多くの免疫を生み出している可能性があります。それは確かにあり得ることです」。さらに、モデルでは、病気の治療方法やワクチンの開発に進展はないと仮定している。
これらの仮定の下で、さらに、社会的距離政策がウイルスの感染力を60%減少させ、夏期に感染力が40%減少するとした場合、モデルから次のような結論が得られる。米国で救命救急を必要とする症例を、病院が現在収容可能な数を下回る数のまま維持するためには、5月中旬まで現在の社会的距離を維持したうえ、8月、10月下旬から年末、2021年2月から4月、2021年6月、さらには2022年以降の同期間に、社会的距離政策を繰り返し実施する必要がある。
救命救急用の病床の数を2倍に増やしながら、他の仮定を同じに保つと、はるかに良い見通しが得られる。2021年半ばまでに、1カ月または2カ月間隔で3回、そして2021年末の1カ月間の社会的距離政策を実施すれば、米国は2022年7月までに集団免疫を得られるだろう。
それでもなお、未知数が非常に多いため、パラメータの組み合わせ数はすぐに倍増してしまう。リプシッチ教授らは論文の中で何十もの異なるシナリオを検討し、それらのすべてにおいて、「ワクチン無しで集団免疫を得るためには、複数回の社会的距離期間が必要になります」と述べる。
社会的距離政策を何回実施する必要があるかについて不確実性があるため、集団免疫を達成するのに2022年の夏までかかる決めてかかる必要はない。たとえば、救命救急用の病床数を2倍よりはるかに上回る数にすることは可能だろう。効果的な接触追跡により、地区全体を封鎖(ロックダウン)する代わりに、病原体に晒された可能性が最も高い人をより正確に特定できるようになる。
そして、来月にでも広範な検査を実施できれば、ウイルスがどこまで広がったか、そしてどこまで広がり得るかについて、はるかに良いデータが得られるだろう。たとえ米国が検査の最前線に立っていなかったとしても、たとえばドイツやフィンランドのより良いデータによって、モデル作成者がはるかに大きな自信を持って予測することが可能になるだろう。
しかし、ノースカロライナ大学の社会学者のゼイネップ・トゥフェクチ准教授がアトランティック(Atlantic)誌で述べているように、そうしたモデルが将来を予測できるわけではない。むしろ、それらは「さまざまな可能性」と「そうした可能性が実現するかどうかは私たちの行動次第である」ことを示している。何らかの行動をとらなければ、私たちは何年もの間、隔離状態にあるかもしれない。一方で、行動をとることも選択できる。
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