英国政府は以前、集団免疫が形成されるまで、十分な人数が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染するのを待つという政策を打ち出していた。だが、それが誤りであることは多くの人が知るところだ。 英国政府は感染者数が増加する曲線の平坦化が容易であると過度に楽観視していたのだ。しかし、英国政府の考えは、思った以上に早く集団免疫を獲得できるかもしれないという推測に煽られて、一部では強い支持を得ていた。そのため、これまでに判明した事実に照らし合わせ、集団免疫の形成が実行可能な政策ではないことを理解することは重要である。
第1に、感染者が免疫を持つようになると仮定しても、免疫の持続期間は不明だ(一部のコロナウイルスや通常のインフルエンザの場合、免疫が維持できる期間は1年未満である)。第2に、免疫が維持されると仮定したとしても、集団免疫が形成されるまでにどのくらいの期間を要するかは不明である。
後者が不確実な理由は、新型コロナウイルスに関する複数の大きな不明点に起因する。
1つは、感染力の強さだ。感染率が低下し始めるには、ウイルスの感染力(1人の感染症患者が生み出す2次感染者数の平均値「R0」で表される)が強いほど、免疫を持たなくてはならない人数も増える。しかし、 R0 の推定値にはばらつきがある。推定では、集団免疫が形成されるには、 人口のおよそ2分の1から4分の3が新型コロナウイルスに感染する必要があることが示唆されている。
2つ目の不明点は、これまでの実際の感染者数だ。この点については推定値にさらに大きなばらつきが存在する。インペリアル・カレッジ・ロンドンのチームの調査では、3月28日時点で、イタリアで判明している感染者数は10万人弱(人口の0.2%未満)だったのに対し、実際にはイタリア人の約10%がウイルスに感染しており、その大半は無症状か、軽症のため検査を受けていないと推定されている。50倍の差を示したこの推定値は、他で示された推定値よりもはるかに大きい。
3つ目の不明点は、感染者における無症状者の割合である。米国疾病予防管理センター(CDC)の公式見解では無症状者の割合は25%とされているが、一部の局地的なアウトブレイクに対する小規模調査では、無症状者の割合は50%近い可能性があると示唆されている。こうした調査は、新型コロナウイルスが既に遙かに広範囲に拡散しているという理論の裏付けとなるだろう。
とは言え、現在、実際の感染者数は把握できるほど十分な人数の検査はできていないため、上記の数値についてもまだまだ議論の余地が残っている。また、たとえ実際の感染者数が予想より遙かに多かったとしても、ワクチンや治療法が開発されるより早く自然の集団免疫が形成できるかどうかは依然として不明だ。いずれにせよ、当面の間は、医療システムを崩壊させないレベルまで感染率を抑え、あらゆる世代の医療従事者に深刻なトラウマを残さぬようにしなければならない。
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