新型コロナで
先鋭化するナショナリズム、
気候対策にも暗い影
パンデミックでますます先鋭化するナショナリズムは、世界各国の協力でしか解決できない気候変動への取り組みに暗い影を落とす可能性がある。 by James Temple2020.05.29
2019年12月15日の昼過ぎ、スペイン・マドリードで開催されていた国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)で小槌は叩かれた。4年前に合意したパリ協定の重要な部分に関する数週間に及ぶ交渉は失敗に終わった。予定よりほぼ2日近く延長して協議したにもかかわらず、数千人にも及ぶ代表者は前進のための基本的なルール作りに行き詰まったまま、会議場を後にした。
失敗にはさまざまな批判があるが、気候変動対策の前進をオーストラリア、ブラジル、米国が必死になって阻止したため、というのが大方の見方だ。3つの国に共通しているのは、一層の気候変動対策を求める国際社会の要求を退けることを公約として権力の座についた、ナショナリスト指導者によって運営されていることだ。
ブラジルは、ジャイル・ボルソナロが2018年の大統領選に勝利すると(就任は2019年1月1日)、内定していた2019年のCOP25の主催を即座に辞退した。代わりにスペイン・マドリードで開催されたCOP25では、農業と鉱業のためにアマゾンを開拓する必要があるという主張に時間を費やした。米国はドナルド・トランプ大統領のもとで合意から完全離脱する方向にかじを切り、気候災害に見舞われた貧しい国々に資金や支援を提供するプロセスを確立する取り組みを妨害した。
結局、COP25におけるほぼすべての主要な決定は、2020年11月に英国グラスゴーで予定されていた次の会議(COP26)に先送りされた(その後、COP26は2021年に延期)。「パリ協定を誕生させた『なせばなる』の精神は、今では遠い昔の思い出のように思えます」。世界資源研究所(World Resources Institute)のヘレン・マウントフォード副所長(気候・経済担当)は会議の終わりにこう話した。
COP25が終わって2週間後、数十人への感染が確認されていた致死性の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)株が中国で特定され、パンデミック(世界的な流行)が始まった。国境は閉ざされ、世界貿易は停滞し、市場は暴落した。各国はお互いを非難し、侮辱し合った。ほんの数週間のうちに、まだなんとか協力して気候変動に立ち向かおうとしていた勢いは、ほぼ消え去ってしまった。
世界中で死亡者数が増加するにつれ、各国はアウトブレイクを遅らせるため、都市を封鎖し、海外渡航を禁止し、経済活動を休止させた。十代の気候変動活動家、グレタ・トゥーンベリは、社会的距離戦略(ソーシャル・ディスタンス)の要請に応じて活動をネットへとシフトしたものの、彼女の活動を目にすることは事実上なくなった。国連が最終的に2020年のCOPの開催中止を決めたことで、協定5周年でより一層の野心的な排出量削減目標を採択するという最後の希望は失われた。
数十年にわたる世界各国の優柔不断を経て署名されたパリ協定には、各国がようやく協力し合い、気候変動に立ち向かえるかもしれないという期待があった。ほぼすべての国が署名し、各国が排出量を抑えるために具体的な対策を講じることに同意していた。だが、振り返ってみると、もしパリ協定が協力の時代の始まりではなく、その絶頂期だったとしたらどうなるのだろうか。
ナショナリストの話術
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中で猛威を振るう中、気候変動の危機的状況を忘れるのはたやすい。現在の優先事項は、パンデミックを抑え、人命を救い、その後、荒廃した経済を立て直すことだ。実際、そうするべきだろう。だが、自国の短期的成長を犠牲にしてでも地球温暖化を遅らせる、あるいはそうする意欲を持つ国はほとんどないだろう。
短期的に見れば、過去に急激に経済が衰退したときと同様、地球規模の排出量は減少している。しかし、二酸化炭素は何世紀にもわたって大気中に残る可能性がある。つまり、二酸化炭素の排出量を減らしたとしても、全体的な濃度は上昇し続ける。また、経済が回復すれば排出量もすぐに元に戻る。二酸化炭素はすでに中国でほぼ通常の範囲内に戻っている。
したがって、急加速する気候変動の脅威は残るだろう。また、雇用機会が減り、よりクリーンなシステムに投資する資金が減り、健康や将来の家計、その他の潜在的リスクにこれまで以上に怯えながら、はるかに貧しい世界で暮らすことになるだろう。
これらは、ナショナリストの本能をさらに煽るのに十分な条件であり、地球規模の課題解決をさらに難しくするはずだ。実際、各国が競って新型コロナウイルスの発生を理解し、対処しようとする中、国際的および国内的な協力関係の崩壊は、気候の将来についても厳しい警告を発している。
まさにその性質上、気候変動は地球規模の問題だ。すべての国が排出量をほぼゼロにする必要がある。だが、各国が同じ動機で気候変動に取り組むわけではない。たとえば、欧州のように歴史に残る膨 …
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