消費者の変化では不十分、パンデミックで見えた温暖化対策の限界
新型コロナウイルス感染症による経済活動の停滞によって、二酸化炭素の排出量が昨年より約4%減少するとの予測が発表された。ライフスタイルの変化や消費者需要の減少だけでは、地球温暖化を防ぐのに十分な排出量の削減は難しい。 by James Temple2020.04.20
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の収束へ向けた取り組みによって、世界経済のほとんどが失速している。まったく意図しない形で、経済活動が二酸化炭素排出量に及ぼす影響についての実験が始まった格好だ。
2020年第一四半期の中国のGDP(国内総生産)は、季節調整済み・年率換算(前期比の年率が1年間続くと仮定した値)で40%減と予測されている。米国のGDPは30%から50%、英国は25%縮小する可能性がある。パンデミックの収束に伴う年内の経済回復が切実に望まれていはいるものの、多くの国で停滞は続きそうだ。米国の2020年の通年のGDP成長率はマイナス約5%下がるとの予測もある。
二酸化炭素排出量という点では、これらはどんな結果をもたらすのだろうか。英国のカーボン・ブリーフ(Carbon Brief)が、世界中の二酸化炭素排出の約4分の3を網羅したデータセットに基づき新たに予測したところによると、2020年の二酸化炭素排出量はおそらく4%減少するという。
カーボン・ブリーフのサイモン・エバンス副編集長は、これまでのどんな不景気や戦争によりも大きな年次低下をもたらすだろうと書いている。だが、この結果は、気候変動に対抗できるほど迅速かつ大幅に排出量を削減するという世界が直面する課題が、いかに大きく難しいものであるかを浮き彫りにしている。
温暖化を1.5℃に抑えるには、今後10年間、世界中で二酸化炭素排出量を毎年6%削減する必要がある。別の言い方をすれば、世界の貿易や旅行、建設など経済活動の大半を数カ月停止したところで、各国は依然として、危険な温暖化レベルを妨げる軌道に乗せられるほど、十分に気候汚染を抑制できないかもしれないのだ。
二酸化炭素の排出は、経済が回復すればほぼ確実に即座にぶり返すだろう。これまでの景気下降の後でもそうだった。実際、中国は新型コロナウイルス感染症の患者の発生がピークに達したあと数カ月で、ほぼ通常の範囲内に戻っている。
カーボン・ブリーフによると、4%という数字は限られたデータに基づいたおおよその推定であり、今後数週間、数カ月に新型コロナウイルス感染症の発生がどのように推移し、経済がどのように対応するかにより変わってくるという。また、経済的衰退と二酸化炭素排出量の減少の関係も、どの産業が最終的にもっとも打撃を受けるかによるとエバンス副編集長は説明する。たとえば、医療や娯楽関連の産業は、二酸化炭素排出量の多い電力部門よりも損失が多いだろう。
しかし、この結果により、ライフスタイルを変化させたり、車での移動や飛行機での旅行の削減など消費者需要を減少させたりすることで二酸化炭素排出量を削減するのには限界があることがはっきりした。発電や製造、食糧の生産方法を根本的に見直し、困難に打ち勝つ必要があることを肝に銘じなければならない。
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- ジェームス・テンプル [James Temple]米国版 エネルギー担当上級編集者
- MITテクノロジーレビュー[米国版]のエネルギー担当上級編集者です。特に再生可能エネルギーと気候変動に対処するテクノロジーの取材に取り組んでいます。前職ではバージ(The Verge)の上級ディレクターを務めており、それ以前はリコード(Recode)の編集長代理、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニストでした。エネルギーや気候変動の記事を書いていないときは、よく犬の散歩かカリフォルニアの景色をビデオ撮影しています。