実際のところ、これまでに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染した人はどのくらいいるのだろうか? ドイツのある町で、暫定的な答えが出された。人口の約14%だという。
オランダとの国境に近いガンゲルトの町では、2月に開催されたカーニバルで町外からも多くの人が訪れていた。その後、新型コロナウイルス感染症の患者が急増し、町は思いがけず実験場としての役割を担うことになった。
近くの大学の科学者チームが、500人の住人から採取した血液を調べたところ、住人の7人に1人がすでにウイルスに感染して「免疫」を持っていると判断された。その中には、まったく無症状の人もいた。
ドイツ語でオンラインに公開された調査概要(PDF)は、ガンゲルトをはじめ世界中の町がロックダウン(都市封鎖)の解除時期を判断する際の参考になるかもしれない。
「まだ人口の大部分が感染したとは言えない状態にあると思います」と、イエール大学の社会科学研究者であるニコラス・クリスタキス医師は言う。「ガンゲルトではカーニバルやフェスティバルが開催されていましたが、陽性者はわずか14%です。ということは、ドイツでもとりわけ被害が深刻な地域ですら、新型コロナウイルス感染症が終息するにはほど遠いということです」。
地域での本当の感染率を把握することがなぜ重要なのかというと、感染率が高ければ高いほど、今後新たに発生する患者が減るからである。十分な割合の人々が抗体を持てば(おそらく、人口の半分から4分の3)、ウイルスは拡散できなくなる。この考え方を集団免疫という。
だが、ガンゲルトはまだそこに達するにははるか及ばない。ウイルスはこの先も町に深刻なダメージを与える恐れがあり、今回の数字は「残念です」と、クリスタキス医師は言う。
すでに感染した人の割合を調べるために人口集団を検査する試みは、始まったばかりだ。科学者たちは、パンデミック(世界的な流行)の拡大の度合いや本当の致死率、無症状者数を把握するために、このデータを必要としている。
「まだ極めて初期の段階ですが、こうした研究はどうしても必要なものです」と、クリスタキス医師は言う。同医師は、米国でも、ニューヨークのような大都市から中西部の小さな町まで、20万人は検査する必要があると考えている。「多くの基本的なパラメーターを定量化するために欠かせない調査です」。
公式には、新型コロナウイルス感染症の感染者数は世界で150万人以上と報告されている。しかし、そのほとんどは、医療機関を受診し、検査を受けた人の数である。無症状者や検査を受けていない人も含めた実際の感染者数は、それをはるかに上回ると見られる。
ほかに「血清抗体調査」のデータも近いうちに明らかになるはずだ。4月6日にはスタンフォード大学医学部が、独自の血清検査を開始し、医師や看護師など医療関係者の抗体を調べていると発表した。
「検査をすれば、新型コロナウイルス感染症の患者を治療しても感染するリスクが低い医療関係者を見極めることができます。また、自分たちのコミュニティで感染がどれくらい拡大しているかを把握するためにも有益です」と、スタンフォード大学のリサ・キム広報担当は言う。
クリスタキス医師は、複数の病院による初期データがすでに一部の専門家の間に出回っていると話す。これらのデータによって、米国の都市でどのくらい感染が広がっているのか「実態に迫る」ことができるという。「医療関係者の5%が陽性だとすると、一般的な町の感染率はそれよりは高くないと考えられます」。
ドイツの調査を実施したボン大学病院のウイルス学者ヘンドリック・ストリーク教授らのチームは、ガンゲルトの住人約1000人に調査への協力を依頼し、血液と喉の粘液を採取して、アンケートに答えてもらった。
検査をした時点で、2%の住人がコロナウイルスに感染しており、全体で14%が抗体を持っていたことが分かった。抗体を持っているということは、つまり検査前に感染していたということだ。これらの人々は、「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に今後感染することはありません」と研究チームは説明する。
ウイルス拡大に伴い、一定の割合の人々が医療機関を受診し、そのうちの少数が集中治療室に入り、さらにその一部の患者が死に至る。しかし、コロナウイルス感染者全体のうち正確に何パーセントが死に至るのかは、いまだ答えのない最大の疑問の1つだ。
血液検査の結果から、ストリーク教授らのチームはガンゲルト全体の致死率を0.37%と見積もった。一方、ジョンズ・ホプキンス大学が管理しているダッシュボードによると、ドイツで報告された感染者数の致死率は2%とされている。これに比べると、ガンゲルトの数字ははるかに低い。
この違いは、ごく軽症か無症状のため数に含められていない感染者が実際にどれくらいいるかわからないためだと、ストリーク教授らは説明している。
すでに感染した人々が町に存在すれば、感染拡大の速度を緩めることができると、ストリーク教授らのチームは考えている。同チームはまた、手洗いなどの衛生対策、自宅隔離、感染者の追跡と合わせて、社会的距離戦略(social distancing)を少しずつ緩和するための大まかなプロセスも提案している。病院や感染者との濃厚接触など、大量のウイルスに暴露する場所や環境を避ければ、重症化する人も少なくなり、「同時に抗体も獲得できる」という。最終的には、それがアウトブレイクの終息につながる。
(執筆協力:ジェームス・テンプル)
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