VRは期待はずれ? 10年耐えられる企業が最後に勝つ
大々的な宣伝が何年も続いた後、高性能のVRゴーグルが2016年、ついに発売された。しかし、VRゴーグルを買った人は少ししかいない。その理由を考えてみよう。 by Signe Brewster2016.12.31
クラウドファンディングのキックスターターが、最初の現代的VRゴーグルの実現を約束したのは4年前だ。2016年、ついに実質現実(VR)テクノロジーは商業化された。現在、オキュラスやソニー、HTC製の高機能VRゴーグルが市販されている。12月31日までには、世界中で200万台以上のデスクトップ向けVRゴーグルが販売されると考えられている。
しかし「200万台」という数字は、VRという今話題の新しい消費者向けテクノロジーが登場した出来事を正確に表していない。調査会社のカナリス(Canalys)によれば、2016年末までのプレイステーションVRの販売見込みは80万台、HTC Viveは50万台、オキュラス・リフトVRゴーグルは40万台だ。一方、ガートナーによれば、アップルは2007年(iPhoneが登場した年)の6カ月間でiPhoneを330万台販売した。iPhoneの販売台数は2008年には1140万台に達した。
実質現実が非常に革新的で、全く新しいジャンルであることに疑いの余地はない。VRゴーグルを装着した人なら誰でも、実質現実の大きな可能性をはっきり理解するだろう。2014年にオキュラスを買収後、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は「ただ単に自宅でゴーグルを装着するだけで、観客席に座って試合を楽しみ、世界中から集まった生徒や教師のいる教室で勉強し、1対1で医師に診察されることを想像してみてください」と書いた。実際、フェイスブックは実質現実を全く新しいコミュニケーション・プラットフォームとみなしており、いつの日か現在のフェイスブックのように「何十億人の日常生活の一部になる」と考えている。
私はこの1年間、VRゴーグルを調査しテストしてきた。その結果、ソニーやオキュラス、HTCの製品はどれも、第1世代のVRゴーグル以上の性能があることがわかった。では、なぜこうした製品の販売数は伸び悩んでいるのだろうか。
最も明解な答えは気軽に買えないことだ。タッチ・コントローラー付きのオキュラス・リフトは800ドル、700ドルのHTC Vive同様、動作には1000ドル近い(あるいはそれ以上)のデスクトップ・コンピューターが必要だ。自宅にVR対応のコンセプトカーがあるのは、熱心なPCゲーマーだけだろう。
プレイステーションVRも状況は同じだ。プレイステーションVRは、すでに世界中の家庭に5000万台あるPlayStation 4と直接接続できる。しかし、プレイステーションVRの販売開始からちょうど1カ月後に、ソニーは新たにPS4 Proを発表した。販売価格はどちらも400ドルで、既存のPlayStationユーザーの買い換え需要を狙っている。オキュラスやHTC同様、ソニーもVRゴーグルの広告にあまり時間をかけていない。
オキュラスの創業者パーマー・ラッキーは、消費者向けにオキュラスが販売した最初のVRゴーグル(3月に発売されたが、対応コントローラーの発売は12月まで延期された)は、おおむね熱烈なゲーマーや新しいもの好きにしか受け入れられなかった、と2016年1月にフィナンシャル・タイムズ紙に語った。オキュラスは長期的に販売戦略を練ると言い続けており、実質現実テクノロジーが社会全体の期待を十分に満たすほど成熟するのに5~10年かかるかもしれないと認めている。広告を抑制することで、ゴーグルメーカーは期待を過度に高めないようにしつつ、事例を増やす最良の方策を採ろうとしているのだ。
実質現実の人気を高めるには複雑な方程式を解かなければならない。中でも最も重要な要素はコンテンツだ。VRゴーグルのメーカーは実質現実のプラットフォームで優れた経歴がある開発会社を引き寄せているが、大ヒットしたVR作品は生まれていない。開発会社が求めているのはお金を払うプレイヤーであり、プレイヤーは人気コンテンツ(大ヒットゲームであっても、大勢が集まるソーシャル・メディア・プラットフォームでも構わない)に引き寄せられる。
それまでの間は、ソニーやオキュラス、HTCは斬新な体験によって、数少ないVRファンを魅了しようとしている。グーグルのティルト・ブラシは、HTC Viveやオキュラス VRで、手に持ったコントローラーで3D空間内に絵を描ける、マイクロソフト・ペイントのVR版だ。単純に楽しいだけだが、新しいテクノロジーを試すために実質現実の機器を買いたい人には、とても魅力的だ。
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- シグニー・ブリュースターは科学とテクノロジーのライター。特に注目しているのは、たとえば実質現実やドローン、3Dプリントなど、芽生えたばかりのテクノロジーが今後どうなるか、です。記事は、TechCrunch、Wired、Fortuneでも執筆しています。